BSE の病理診断法の改良および感染マウスに関する病理学的研究

 

研究室 獣医病理学研究分野
Lab for Veterinary Pathology
事業推進担当者 古岡 秀文(Hidefumi Furuoka)

 

研究要旨

 BSE の病理学的検索においては通常4~7日間程度の 日数が必要とされていた。そこで,円滑かつ迅速なBSE の確認検査を実施するための迅速法を開発した。また, 免疫組織化学的染色法における感度向上のために,新た な抗原賦活化法を開発し,その有効性について評価を行 った。一方,日本国内で発生したBSE のうち2001年か ら2003年に発生した6例の脳乳剤を,PrP のアミノ酸型 が異なるRIII,C57BL/6,I/LnJ の各近交系マウスに脳内 接種し,潜伏期および,病理組織学的,免疫組織化学的 に検索した。これにより,vCJD との関連や,BSE の国 内発生例と海外例との関連を調べる基礎データとして, 一定の成果が得られた。さらに,国内発生BSE 感染マ ウスについて病理学的および生化学的性状について Scrapie 感染マウスとの比較解析を行った。

BSE 診断のための高感度迅速法の開発

 BSE の病理学的検索においては通常4~7日間程度 の日数が必要とされていた。そこで,円滑かつ迅速な BSE の確認検査を実施するための迅速法を開発した。 この方法により,病理学的確認検査に要する時間は12時 間と大幅に短縮され,同法は厚労省の確認検査法におい て公定法として採用されている。さらに,動物プリオン 病における病理学的検索のうち,免疫組織化学的染色で は異常プリオンタンパク質(PrPSc)の抗原賦活化法と して121℃オートクレーブ法やオートクレーブ法と蟻酸 等による化学処理の組合せが用いられている。そこで, 感度向上のために,新たな抗原賦活化法である 135DWHA 法を開発し,その有効性について評価を行 った。また,種々の動物アミノ酸に由来する抗プリオン 抗体について,BSE,羊スクレイピー,スクレイピー感 染マウスで免疫組織化学的に検討を行い,抗体の種特異 性とプリオン蛋白のアミノ酸にみられる動物種差につい て検証した。これらの結果から現在市販,あるいは配布 されている抗体のそれぞれについて,有効な抗原賦活化 法を明らかにするとともに,抗体開発に際して問題点を 明らかにした。新たに開発した135℃オートクレーブ法 は連続エピトープを認識する抗体とのPrPSc の反応性 を著しく上昇させることを認めた。さらに,この方法は 長期間固定処理したサンプルに対しても有効であること を明らかにした。

国内発生BSEの感染マウスにおける病理学的解析

 本邦発生BSE6例の脳乳剤を,PrP のアミノ酸型が異 なるRIII,C57BL/6,I/LnJ の各近交系マウスに脳内接 種し,潜伏期および,病理組織学的,免疫組織化学的に 検索した。実験に用いた全てのBSE は,マウスに伝達 することができたが,潜伏期間には400日~700日と大き くばらつきが見られた。このことは,病期が不明でプリ オン蓄積量も不明なBSE ウシからの伝達であるためと 考えられたが,マウスの系統間ではRIII<C57BL/6< I/LnJ の傾向が見られた。これはスクレイピーや,諸外 国のBSE のマウスへの伝達例と一致していた。また, 二代目マウスでは潜伏期の短縮がみられ,差はほとんど みられなかった。病理学的に,3系統に共通して,PrP 免疫染色陽性反応が大脳皮質,視床,中脳,脳幹網様体, 小脳皮質顆粒層,小脳髄質,小脳核などの神経網に認め られた。PrP 陽性分布領域に関して,RIII,I/LnJ はほ ぼ同じ,上記の分布を示したが,C57BL/6では,ほかの 2系統には見られなかった線状体,海馬,小脳皮質分子 層にも陽性反応が見られた。小脳分子層の陽性反応はプ ラーク様であった。I/LnJ では,大脳皮質にプラーク様, 視床にグリアを思わせる星状の反応が見られた。これら 所見は,海外のBSE 感染マウスの報告と一致していた。 今後,vCJD との関連や,BSE の国内発生例と海外例と の関連を調べる基礎データとして,一定の成果が得られた。

BSE およびスクレイピー感染 マウスの比較病理学的研究

 国内発生BSE およびスクレイピー感染マウスについ て病理学的および生化学的性状について比較解析を行っ た。BSE とスクレイピーはいずれもマウスへ伝達する ことが可能であるが,同系統のマウスへ接種した場合潜 伏期,マウスでの病変分布に違いが見られ,さらには前 者ではみられないが,後者では病理学的に特徴的なアミ ロイド斑を確認することができた。また,生化学的には WB での泳動パターンがBSE とスクレイピーで異なる ばかりでなく,初代接種マウスでは由来する動物のプリ オンの性状を維持し,PK 切断部位が異なっていた。病 理学的アミロイド斑の形成はGSS,vCJD あるいは硬膜 移植によるヒトプリオン病の特徴的所見であるが,スク レイピー接種初代マウスのアミロイド斑形成から,由来 する動物のプリオンの性状に関与することが示された。また,BSE を異なる3系統のマウスへ摂取した場合プ リオン蛋白質のアミノ酸の違いにより初代接種マウスで は潜伏期に違いが生じるが,これら3系統マウスでは糖 鎖型を含め泳動パターンには違いがみられていない。ま た,初代マウス脾臓でのプリオンの蓄積は軽度であるが, 二代目では蓄積量が増加することは,BSE プリオンの マウスへの順化の一端を示すものかもしれない。本研究 により,国内発生BSE のマウス馴化株の研究資源化と スクレイピーとの比較生物学的性状の一端を明らかにし た。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
Furuoka H, Yabuzoe A, Horiuchi M, Tagawa Y, Yokoyama T, Yamakawa Y, Shinagawa M, Sata T Effective antigen retrieval method for immunohistochemical detection of abnormal isoform of prion proteins in animals.
Acta Neuropathologica 109 263ー271 2005
Horiuchi, M, Furuoka, H, Kitamura, N, Shinagawa, M Alymphoplasia mice are resistant to prion infection via oral route. Japanese Journal of Veterinary Research 53 149ー157 2006
Iwata N, Sato Y, Higuchi Y, Nohtomi K, Nagata N, Hasegawa H, Tobiume M, Nakamura Y, Hagiwara K, Furuoka H, Horiuchi M, Yamakawa Y, Sata T Distribution of PrP(Sc) in cattle with bovine spongiform encephalopathy slaughtered at abattoirs in Japan. Japanese Journal of Infectious Disease 59 100ー107 2006
Furuoka H, Yabuzoe A, Horiuchi M, Tagawa Y, Yokoyama T, Yamakawa Y, Shinagawa M, Sata T Species-specificity of a Panel of Prion Protein Antibodies for the Immunohistochemical Study of Animal and Human Prion Diseases. Journal of Comparative Pathology 136 9ー17 2007
BSE診断のための高感度迅速法の開発
図1
新規開発抗原賦活化法により免疫組織化学的に従来法(右図)に比較して高感度な結果が得られた.
国内発生BSEの感染マウスにおける生化学的性状
図2
PulsNet の方法に従い,パルスフィールドゲル電気泳動により,チーズおよび患者由来株の遺伝子の類似性を解析した。