細菌毒素の防御法に関する研究

 

研究室 薬効治療学分野
Research Center for Animal Hygiene and Food Safety, Chemotherapy Unit
事業推進担当者 佐藤 栄輝(Eiki Sato)

 

研究要旨

 クロストリジウム属菌であるボツリヌス菌と破傷風菌 が産生するボツリヌス毒素と破傷風毒素は極めて神経毒 性が強く,それらによるボツリヌス食中毒と破傷風は公 衆衛生上重要な問題となっている。また,食品を変質さ せたり劣化させたりする原因として,微生物による腐敗 が良く知られているが,空気中の酸素によって起こる食 品の酸化も食品衛生上,非常に重要な問題の一つである。 一方,茶は昔から特有の清香と滋味を楽しむ嗜好品とし て,また健康保持に良い飲料として親しまれて来た。そ こで,ボツリヌス毒素と破傷風毒素を中和する物質と食 品の酸化を防止する物質を安全性の面から各種茶(紅茶, ウーロン茶,ほうじ茶,緑茶)の成分に着目し探索した。

ボツリヌス毒素の防御法に関する研究

【背景・目的】 ボツリヌス毒素によるボツリヌス食中毒 は食品衛生上重要な問題となっている。そこで,ボツ リヌス毒素を中和する物質を安全性の面から各種茶と 各種和漢薬の成分に着目し探索した。

【結果】 運動神経ー骨格筋標本におけるボツリヌス毒素 による興奮伝達阻害を紅茶ブタノール抽出物が阻止す ることを発見し,さらに生体内でも阻止作用が発現す ることを実証した。そのメカニズムは紅茶ブタノール 抽出物の毒素への結合(中和作用)に起因することを 証明した。また,和漢薬であるゴバイシとゲンノショ ウコのメタノール抽出物も中和作用を示すことを見出 した。各種和漢薬と各種茶熱水抽出物およびそれらの 各種溶媒抽出物の中和作用を比較し,紅茶酢酸エチル 抽出物が最も中和作用が強いことを証明した。

【考察】 ボツリヌス毒素中和物質は紅茶酢酸エチル抽出 物中に豊富に存在することが明らかとなった。今後, 紅茶酢酸エチル抽出物中の中和物質を特定する必要が ある。

破傷風毒素の防御法に関する研究

【背景・目的】 破傷風毒素による破傷風は公衆衛生上重 要な問題となっている。そこで,破傷風毒素を中和す る物質を安全性の面から各種茶の成分に着目し探索し た。

【結果】 運動神経ー骨格筋標本における破傷風毒素によ る興奮伝達阻害を紅茶ブタノール抽出物が阻止するこ とを発見し,さらに生体内でも阻止作用が発現するこ とを実証した。そのメカニズムは紅茶ブタノール抽出 物の毒素への結合に起因することを証明した。

【考察】 破傷風毒素中和物質が紅茶ブタノール抽出物中 に存在することが明らかとなった。今後,紅茶酢酸エ チル抽出物との中和作用の比較と中和物質を特定する 必要がある。

食品酸化の防御法に関する研究

【背景・目的】 空気中の酸素によって起こる食品の酸化 も食品衛生上重要な問題の一つである。そこで,抗酸 化物質を安全性の面から各種茶の成分に着目し探索した。

【結果】 還元力,フリーラジカル消去能および活性酸素 惹起溶血反応を指標にして各種茶熱水抽出物の抗酸化 作用を比較し,緑茶>ほうじ茶>ウーロン茶≧紅茶の 順で作用が強いことを証明した。フェノール類の含有 量はほうじ茶熱水抽出物が最も少なかった(緑茶>ウ ーロン茶>紅茶>ほうじ茶)。

【考察】 抗酸化物質は緑茶熱水抽出物中に豊富に存在す ることが知られているが,ほうじ茶熱水抽出物もそれ に次ぐ含有量であることが明らかとなった。今後,ほ うじ茶熱水抽出物中の抗酸化物質を特定する必要があ る。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
E. SATOH Ethyl acetate extract from black tea prevents neuromuscular blockade by
botulinum neurotoxin type A in vitro.
Int. J. Food Sci. Nutr. 56(8) 543ー550 2005
E. SATOH, N. TOHYAMA and M. NISHIMURA Comparison of the antioxidant activity of roasted tea with green, oolong,
and black teas.
Int. J. Food Sci. Nutr. 56(8) 551ー559 2005
沢村真一、坂根巌、大野哲司、石井利明、佐藤栄輝、西村昌数 和漢薬からA型ボツリヌス神経毒素中和物質の探索 日食科工誌 51(9) 463ー466 2004
沢村真一、坂根巌、佐藤栄輝、石井利明、清水祥夫、西村昌数、梅原薫 紅茶抽出液のボツリヌス毒素中和物質の単離精製 日薬理誌 120(補冊1) 116Pー118P 2002
E. SATOH, T. ISHII, Y. SHIMIZU, S. SAWAMURA and M. NISHIMURA The mechanism underlying the protective effect of the thearubigin fraction
   of black tea (Camellia sinensis) extract against the neuromuscular
   blocking action of botulinum neurotoxins.
Pharmacol. Toxicol. 90(4) 199ー202 2002
紅茶、ウーロン茶、ほうじ茶および緑茶の浸出物によるA型ボツリヌス毒素の運動神経—骨格筋興奮伝達阻害阻止作用
図1
Black tea: 紅茶、Oolong tea: ウーロン茶、Roasted tea: ほうじ茶、
Green tea: 緑茶、Protective effect: 運動神経—骨格筋興奮伝達阻害阻止作用
紅茶由来酢酸エチル抽出物とブタノール抽出物によるA型ボツリヌス毒素の運動神経—骨格筋興奮伝達阻害阻止作用
図2
BoNT/A: A型ボツリヌス毒素、EAE: 酢酸エチル抽出物、
BE: ブタノール抽出物、DW: 蒸留水、IT: 神経刺激による単収縮、
DT: 筋直接刺激による単収縮