水産食品製造におけるリステリア菌に対する危害分析

 

研究室 獣医公衆衛生学分野,大動物特殊疾病研究センター・食品有害微生物分野
Lab for Veterinary Public Health, Laboratory of Food Microbiology and Immunology, Reseach Center for Animal Hygiene and Food Safety
事業推進担当者 武士 甲一(Koichi Takeshi),牧野 壮一(Sou-ichi Makino),川本 恵子(Keiko Kawamoto)

 

研究要旨

 近年,欧米においてヒトのリステリア症は食品媒介感 染症と位置づけられ,食品衛生分野で調査研究が行われ ている。わが国においても食品を介したListeria monocytogenes( リステリア菌)による集団食中毒事例が確 認され,また,国内産の食品においても本菌が広く分布 することが知られている。本菌による食中毒を未然に防 止するためには食品製造において危害分析を行い,衛生 管理を徹底する必要がある。

スモークサーモン製造における リステリア菌に対する危害分析

 北海道内の2箇所のスモークサーモン製造施設を調査施設とし,原材料であるサケ,製造工程や製造環境にお けるL. monocytogenes に対する危害分析を行った。施設 A では作業開始前の内臓輸送用ベルトからL. monocytogenes が検出され,また,施設B では魚体処理室引き戸 の車輪からL. welshimeri が検出されたが,両施設とも 原材料,中間製品,最終製品,その他の製造環境試料か らリステリア属菌は検出されなかった。また,ヒト下痢 便680検体を対象に検出を試みたが,L. monocytogenes は検出されなかった。

塩タラコ製造における リステリア菌に対する危害分析

 塩タラコ製造において原材料から最終製品に至るすべて の過程でリステリア菌に対する危害分析を行った。また, 1/20スケールの模擬漬け込み工程を考案し,中間製品に リステリア菌を接種して消長を観察した。  その結果,漬け込み工程で使用される運搬用パレット 及び漬け込み樽移動用ローラーコンベアからリステリア 菌が検出された。しかし,原材料,中間製品,最終製品 から本菌は検出されず,また,模擬漬け込み工程におい て本菌の増殖は確認されなかった。運搬用パレットは, 洗浄不足のため本菌を排除できなかったため,漬け込み 樽底部が当該運搬用パレットを介して汚染を受け,さら に漬け込み樽がローラーコンベアを汚染したと考えられ た。これらの交叉汚染により,使用器具・器材を介して 中間製品あるいは最終製品が汚染を受ける可能性がある ので,一般的衛生管理事項の再点検と徹底した洗浄・殺 菌を行い,定期的な細菌検査によって常に衛生状態を確 認する必要がある。

魚卵製品製造における リステリア菌に対する危害分析

 シロサケ筋子製造において,原材料,中間製品,最終 製品のいずれからも本菌は検出されなかった。しかし, 断頭機の魚体搬送ベルト,原魚栽割工程における器具類 および回収した魚卵を漬け込み工程に搬送するためのロ ーラーコンベア(軸受け部)で一般生菌数が顕著に高く, また,栽割工程の器具類,ローラーコンベア設置床面で 大腸菌群が陽性となり,しかも大腸菌が検出された。こ れらは,機器の構造が微小な肉片や粘液などの汚れを溜 めやすく,容易に排除しにくいものであることと,洗浄 および殺菌が効果的に実施されていなかったことにより, 微生物増殖の温床となっていること,更に当該コンベア 設置場所を本来通路として使用しないことになっている ものの,作業員が原魚栽割工程から直接進入することに よって交差汚染したことによるものと考えられた。これ らの交叉汚染により,使用器具・器材を介して中間製品 あるいは最終製品が汚染を受ける可能性があるので,一 般的衛生管理事項の再点検と徹底した洗浄・殺菌を行い, 定期的な細菌検査によって常に衛生状態を確認する必要 がある。
  調味カズノコにおいて,製造工程,原材料,中間製品, 最終製品のいずれからも本菌は検出されなかった。原卵 は,カナダ産の輸入ペール缶入りを使用しており,飽和 塩水漬けで水分活性が低かったが,一般生菌数は比較的 高く10の4乗CFU/g検出された。しかし,原卵の塩 抜き工程や調味後において一般生菌数が減少し,最終製 品では10の2乗CFU/g程度と低かった。環境温度は, 工程の大部分を行う作業エリアの温度は15~20℃,保冷 庫はほぼ5℃以下に保たれていた。カズノコ自体の温度 は,原卵で10℃,塩抜き卵で7.5℃,調味後の卵で5℃ 以下となっており,特に問題はなかった。一方,拭き取 り検査については,運搬台車の内枠,作業エリア床,保 冷庫床,踏み台で一般生菌数が顕著に高く,大腸菌群も 10~10の4乗CFU/g検出された。運搬台車の内枠に ついては角の部分に水が溜まりやすい構造になっており, 容易に菌数が増加したと考えられた。作業員用の踏み台 は,木製であるため木目の間に汚れが溜まっており,菌 が増殖しやすい形状であった。これらからの交叉汚染に より,中間製品あるいは最終製品が汚染を受ける可能性 がある。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
牧野壮一,武士甲一 危機管理:バイオテロリズムへの対応 臨床と微生物 19 143-153 2005
武士甲一,駒木 勝,牧野壮一 容器包装詰食品のボツリヌス食中毒対策について 食品衛生学雑誌 46(3) J210ー212 2005
L. J-ChulS. et al. (他10名,7番目) Production of anti-neurotoxin antibody is enhanced by two subcomponents, HA1 and HA3b, of Clostridium botulinum type B 16S toxin-haemagglutinin Microbiol. 151 3730ー3747 2006
小熊恵二,武士甲一,中野宏幸 ボツリヌス菌―毒素と食中毒 食の安全科学 19 143ー153 2006
Y. Sassa, D. Fukui, K. Takeshi, T. Miyazawa. Neutralization Antibodies against feline Parvoviruses in nondomestic felids Inoculated with Commercial Inactivated Polyvalent Vaccines
J. Vet. Med. Sci. 68(11) 1195ー1198 2006
リステリア菌が検出されたパレット
図1
図2
上:洗浄後収納されたパレットの状態,
下:白色斑点状に見えるバイオフィルムから検出された
味付け数の子の製造工程
図3
図4
上:調味液への漬け込み工程終了後の液切り工程
下:計量・包装工程