食品微生物の制御に関する研究

 

研究室 食品有害微生物分野・獣医公衆衛生学分野
Laboratory of Food Microbiology and Immunology, Reseach Center for Animal Hygiene and Food Safety Lab for Veterinary Public Health
事業推進担当者 牧野 壮一(Sou-ichi Makino),川本 恵子(Keiko Kawamoto),武士 甲一(Koichi Takeshi)

 

研究要旨

 近年,必ずしも安全ではない食品が広く社会に流通す るようになった。安全な食生活を保障するために,食品 のリスクを管理し,評価する研究と食料の安全性につい ての正確かつ強力な科学的根拠を提供することが社会的 に強く求められている。食料が農場から食卓,更には体 内にまで至る流通経路・代謝過程の中で,人体に危害を もたらす可能性のある要因を科学的に解析し,その危害 の予防法や排除技術の開発に資する科学的根拠を構築す ることを最終目的として本グループは研究を行ってきた。 特に,健康被害をもたらす病原体,すなわち食品媒介感 染症,特に細菌性感染症における原因病原体の検出とそ れらによる危害阻止に資する技術やシステムの開発,安 全性評価,薬剤抵抗性・感受性の評価,内因性及び外来 性物質の安全性評価,安全性評価手法の開発に焦点を当 て研究を実施した。

Listeria monocytogenes ( リステリア) に関する研究

 リステリアは高濃度の食塩を含む食品中および低温(4 ~10℃)で増殖し,我国では集団発生が報告されていな いが,海外では乳製品を中心とした集団発生例が多く報 告され,重要な食品有害微生物の一つとなっている。種々 の環境中で存在し,その制御は困難である。また,健康 成人での発症はまれで,乳幼児,妊婦そして老人などの 免疫弱者に発生が多い。風邪様症状や胃腸炎を主徴とす るためリステリア症の探知は困難であり,わが国におけ るリステリアの健康被害は北海道の一件のみである。そ こで,リステリアのリスク評価が必要であるが,基礎デ ータが不足しており正確な評価ができないのが現状であ る。そこで,リステリアの増殖に関与する遺伝子を同定 するとともに,リステリア症の実験モデルシステムの構 築を目指し,リステリアの宿主反応を追及し,食品・環 境中に常在するリステリアのヒトへの危険性を評価する システムを確立する必要がある。そこで,疫学調査を含 め,多元的な側面からリステリアについて研究を実施し た。

(1)リステリアの食塩耐性に関する研究:リステリア の食塩耐性に関与するrel 遺伝子を同定し,RNA 合成過程が重要であることを明らかにした。

(2)リステリアの疫学調査研究:わが国で初めての食 品を介したリステリアによる健康被害を分子疫学的 に解析し,集団感染であることを明らかにした。ま た,食材のリステリアの危害分析を実施した。

(3)リステリアの宿主応答に関する研究:糖尿病やア レルギー疾患などの基礎疾患を持つ人はリステリア に対するリスクが増大することを明らかにした。

病原細菌の「培養できないが生きている」状態(Viable but non-culturable state; VBNC) に関する研究

 食中毒が発生した際に,原因食品の摘発は食品衛生上, 再発防止などのために重要な過程である。しかし,現存 する細菌学的検査法では2~3割程度しか摘発できない のが現状である。この原因が食中毒原因菌の多くが,食 品中で食塩などのストレスにより「培養できないが実際 は生きている」状態(VBNC)”に陥り,結果的に検出率 が低下すると我々は考えて研究をスタートさせた。すな わち,食品中で病原菌がVBNC 状態に陥り,培養はで きないため検出できないが,ヒトの感染症を引き起こす としたら,VBNC 状態は公衆衛生上懸念される事項に なるはずであり,その詳細な検討は食品衛生上重要であ ると考えている。

(1) 腸管出血性大腸菌O157におけるVBNC への変化:北 海道産のイクラ醤油漬けで発生したO157事例で, 生菌数が1個以下と少ない菌数で発症が起こった背 景にVBNC に陥ったO157が関係することを突き止 めた。この変化は食品中の食塩により引き起こされ た。O157のHNS 蛋白を主とするDNA のストレス 応答が食塩ストレスによるVBNC への移行に関与 していた。

(2) サルモネラにおけるVBNC への変化:乾燥イカによ るサルモネラ食中毒が発生し,O157と同様に乾燥 と食塩によるストレスでVBNC に陥っていること を突き止めた。さらに,VBNC 状態のサルモネラ は培養できないが,病原性を保持していることを証 明し,食品衛生対策上重要な意義を持つことを明ら かにした。また,VBNC のサルモネラを培養可能 な状態に蘇生させるRpf 蛋白の同定に成功した。

  VBNC 状態の細菌は通常の細菌検査法では検出でき ないが,病原性は有するため,食品衛生上大きな問題で あり,その対策は今後のあらゆる食品衛生検査や技術に 重要である。

2類感染症の検出法に関する研究

 赤痢菌は,グラム陰性桿菌で細菌性赤痢感染症の原因 菌であり二類感染症の1つに指定されている。細菌性赤 痢感染症は海外感染例がほとんどであったが,近年は国 内感染例が増加傾向にある。その原因として,食品媒介 感染が考えられている。しかし,発症菌数が10個以下と 少ない事から,食品からの迅速かつ高感度な赤痢菌検出 は食の安全上非常に重要である。そこで,本研究では, 食品からの赤痢菌検出法の標準化を図り,感度の向上を 目指した。2001年に西日本で韓国産輸入カキが原因の細 菌性赤痢感染症患者が発生し,厚生労働省により参考試 験法が配布されているが,本年度は,この参考法に変更 を加え,高感度で迅速な方法に改良した。具体的には,再現性のあるサンプル処理方法,リアルタイムPCR の 導入,不純物を除去する迅速かつ簡便な方法の導入によ り,サンプル中1個以上の菌数が存在すれば24時間以内 に検出が可能となった。新規検出法により,希釈した菌 液を接種したサンプルでPCR 後の電気泳動から, invG,ipaH,16S rDNA 3つのプライマーが検出され, 1個以下の菌数が存在していれば,検出が可能であると いえた。  本研究では,新規検出法でジルコニアビーズ破砕法キ ットを使用した事により問題解決に至ったと思われる。 よって,本検出法はこの一般細菌や大腸菌存在下におい ても殆ど検出に影響を受けず,高感度であると考えられ る。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
Asakura. H., Panutdaporn. N., Kawamoto. K., Igimi. S., Yamamoto. S., and Makino S-I. Isolation of mini-Tn5Km2 insertion mutants of Salmonella enterica serovar Oranienburg sensitive to NaCl-induced osmotic stress. Microbiol Immunol. 48 981-984 2004
Panutdaporn N, Kawamoto K, Asakura H, Makino S-I. Resuscitation of the viable but non-culturable state of Salmonella enterica serovar Oranienburg by recombinant resuscitation-promoting factor derived from Salmonella Typhimurium strain LT2. Int J Food Microbiol. 106 241-247 2005
Makino S-I, Kawamoto K, Takeshi K, Okada Y, Yamasaki M, Yamamoto S, Igimi S. An outbreak of food-borne listeriosis due to cheese in Japan, during 2001. Int J Food Microbiol. 104 189-196 2005
Asakura H, Igimi S, Kawamoto K, Yamamoto S, Makino S-I. Role of in vivo passage on the environmental adaptation of enterohemorrhagic Escherichia coli O157:H7: Cross-induction of the viable but nonculturable state by osmotic and oxidative stresses. FEMS Microbiol Lett. 253 243-249 2005
Asakura H, Kawamoto K, Igimi S, Yamamoto S, Makino S. Enhancement of mice susceptibility to infection with Listeria monocytogenes by the treatment of morphine. Microbiol Immunol. 50 543-547 2006
生きているが培養できない状態
図1
サルモネラを始めとして多くの病原細菌が環境ストレス等により容易にVBNC化する。VBNC菌は培養できないため、通常検査で見過ごされるが、病原性は保持しているため、このような菌の汚染が公衆衛生上の懸念となっている。本研究では、サルモネラなどを用いてVBNCの分子メカニズムの解明と蘇生因子によるVBNC菌の検出法の開発を行った。
チーズ由来リステリアの遺伝子解析
図2
PulsNetの方法に従い、パルスフィールドゲル電気泳動により、チーズおよび患者由来株の遺伝子の類似性を解析した。