原虫病診断技術の開発

 

研究室 高度診断学分野
Lab for Molecular Diagnosis
事業推進担当者 五十嵐郁男(Ikuo Igarashi),横山 直明(Naoaki Yokoyama),井上  昇(Noboru Inoue),玄  学南(Xuenan Xuan)

 

研究要旨

 バベシアやトキソプラズマ病に対する特異性,感度の 高いELISA 法および短時間で判定可能なイムノクロマト グラフィックテスト(ICT) の開発を検討した。原虫の cDNA ライブラーと陽性血清を用いてイムノスクリニン グを行い,診断に適した抗原をコードする遺伝子の検索 を行った。得られた遺伝子を用いて組換え抗原を用いて ELISA 法を行い,特異性,感受性について比較検討した。 ELISA 法の結果に基づき,組換え抗原の定着法などICT の反欧条件を検討し,診断キットを試作した。野外で採 集された馬の血液材料を用いて,試作診断キットによる 抗体調査を行い,その結果をELISA の結果と比較した。 また,バベシア原虫,トリパノソーマ原虫,タイレリア 原虫に対する標的な遺伝子診断法であるPCR 法,更に PCR 法に用いられる設備の整った研究室や高価な機材を 必要としない遺伝子増幅法として近年注目されている LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification) 法の確 立について検討した。原虫の特異的な遺伝子の配列に基 づき,PCR 用のプライマーを設計する。作製されたプラ イマーを用いて,遺伝子増幅に適した反応条件について 検討する。得られた条件を特異性,感度について検討し た。更に,LMAP 用のプライマーを設計し,遺伝子増幅 に適した反応条件について検討した。得られた条件を特 異性,感度についてPCR 法と比較検討した。また,両 方法について,野外で採集された試料を用い,実用性に ついて血清診断法と比較検討した。

原虫病に対する診断法開発の重要性

 原虫病は,世界的規模で特に開発途上国において家畜 の肉乳製品の生産性を著しく低下させ,甚大な経済的被 害を与えている。しかし,未だに有効なワクチンや治療 薬が少なく,その多くは人獣共通感染病としても重要で, 世界最大の感染症と言われている。また家畜や多くの動 物性蛋白質食品が我が国に輸入されており,これに伴う 感染症の日本への侵入阻止が重要である。現在,日本で は,バベシア原虫,タイレリア原虫,トキソプラズマ原 虫やトリパノソーマ原虫などが法定伝染病や届出伝染病 に指定されており,家畜,家禽,ペット,野生動物など の数十種類の原虫病に対する万全な監視体制を整えるこ とが畜産・獣医関係者の急務となっている。しかしなが ら,これらの原虫病を検出するための診断法の特異性や 感度が低く,新たな診断法の開発が望まれている。また, ウマバベシア病の様に,馬を輸入する際,感染馬の判定 をめぐって頻繁に国際的な問題が発生している場合もあ り,国際的に標準となる診断法の開発も重要である。し たがって,原虫病の対策,防疫体制の強化,スムーズな 国際的な動物の観点から,原虫病に対する迅速で正確な 診断法の開発が早急に必要である。本プロジェクトでは 重要原虫病に対する新たな血清ならびに遺伝子診断法の 開発を推進し,原虫病診断における国際的拠点形成を目 標とした。

原虫病に対する新たな血清ならび に遺伝子診断法の開発

1.血清診断法の開発  診断用の抗原検索の結果,数種類の新規遺伝子が得ら れた。その中で,ウマバベシア原虫B. equi のメロゾイ ト表面抗原(EMA-2)および B. caballi のロプトリー 抗原の組み換抗原(BC48)を用いたELISA は感度及び 特異性に優れていることが野外血清を用いた試験で示さ れた。更に同じ抗原を用いて,特異的反応が高く,短時 間で判定可能なICT の開発に成功した。また,これら 2種類の抗原を一つのスティックに固定して,同時に2 種類のウマバベシア感染を診断できるキットも開発され た。更に,トキソプラズマ,ウシバベシア,イヌバベシ ア,ネオスポーラ症に対するELISA 法とICT も世界に 先駆けて開発された。

2.遺伝子診断法の開発  2種類のウマバベシア原虫検出について,それぞれに 特異的なPCR 法を確立し,更に同時に2種類のウマバ ベシア原虫が検出可能なマルチプレックスPCR 法が開 発された。また,トリパノソーマ原虫について臨床現場 で使用可能な新規の遺伝子増幅法であるLAMP 法が世 界に先駆けて開発され,新たな遺伝子診断法として世界 的に注目されている。更に,ウマバベシア原虫に対する LAMP 法,ウシバベシア原虫に対するマルチプレック スLAMP 法も確立された。これらの対するLAMP 法は PCR 法と同等あるいはそれ以上の感度を有しているこ とが明らかとなった。

新たな原虫病診断法から国際貢献へ

 本プロジェクトにより,世界に先駆けて最新の血清な らびに遺伝子診断法が開発された。例えば,ウマバベシ ア症の診断に組換え抗原を用いたELISA が開発され, 今後農水省動物検疫所の輸入馬へのスクリーニング方法 として導入予定である。また,15分以内で判定可能な ICT がウマバベシア症に対して確立され,簡易迅速血 清診断法として流行地での原虫病診断法として普及が期 待される。
  ウマバベシア原虫のマルチプルPCR 法は,サンプル 中に1~2個の原虫が存在すれば,2種類の原虫の遺伝 子を同時に検出可能である。また,近年開発された LAMP 法は,遺伝子増幅に特別の機器を必要とせず, 結果も目で判定可能で,感度や特異性もこれまでの PCR 法と同等であり,流行地に適した遺伝子診断法で ある。本研究による,動物トリパノソーマ症の遺伝子診 断法としての有用性が注目され,ヒトのトリパノソーマ 症やマラリアの診断に本法の導入が検討されている。更 にこれらの新規の診断法の開発が評価され,原虫病研究 センターはが国際獣疫事務局(OIE)のレファレンス・ ラボラトリーとして認定された(平成19年1月専門委員 会承認,19年5月にOIE 総会で正式承認の予定)。今後, これらの新しい診断法により,動物原虫症の流行状況の 確実な把握が可能になるばかりでなく,日本の輸入検疫 の防疫体制の強化,原虫病診断における国際的拠点形成 に大きく寄与するものとして期待される。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
Kuboki N, Inoue N, Sakurai T, Di Cello F, Grab DJ, Suzuki H, Sugimoto C, Igarashi I. Loop-mediated isothermal amplification for detection of African trypanosomes. Journal of Clinical Microbiology  41 5517ー5524 2003
Huang X, Xuan X, Xu L, Zhang S, Yokoyama N, Suzuki N, Igarashi I Development of an immunochromatographic test with recombinant EMA-2 for the rapid detection of antibodies against Babesia equi in horses. Journal of Clinical Microbiology  42 359ー361 2004
Alhassan A, Pumidonming W, Okamura M, Hirata H, Battsetseg B, Fujisaki K, Yokoyama N, Igarashi I. Development of a single-round and multiplex PCR method for the simultaneous detection of Babesia caballi and Babesia equi in horse blood. Veterinary Parasitology 129 43ー49 2005
Huang X, Xuan X, Verdida R A, Zhang S, Yokoyama N, Xu L, Igarashi I. An Immunochromatographic Test for the Simultaneous Serodiagnosis of Babesia caballi and B. equi Infections in Horses. Clinical and Vaccine Immunology 13 553ー555 2006
169. Alhassan A, Thekisoe OM, Yokoyama N, Inoue N, Motloang MY, Mbati PA, Yin H, Katayama Y, Anzai T, Sugimoto C, Igarashi I. Development of loop-mediated isothermal amplification (LAMP) method for diagnosis of equine piroplasmosis. Veterinary Parasitology 143 155ー160 2007
2種類のウマバベシア原虫に対する抗体を同時に検出可能なイムノクロマトグラフィックテスト(ICT)
図1
レーン1:ICT のサンプルパッドに試験血清を加えると、15分以内に次のような結果が得られる。レーン2: Babesia equi とB. caballi両方とも陽性、レーン3: B. caballiのみ陽性、レーン4: B. equi とのみ陽性、レーン5:両方とも陰性 。
Babesia equi に対する LAMP 法の特異性の検討
図2
レーン1から5まで、それぞれウマ白血球, B. equi、 B. caballi、 B. bovisおよび Trypanosoma evansi のDNAを加えると、 B. equi のDNAを加えたレーン2にだけ増幅が認められた。