大動物生産性の向上を目指す周産期管理の研究

 

研究室 大動物巡回臨床研究分野
Large Animal Medicine Research Unit
事業推進担当者 石井三都夫(Mitsuo Ishii)

 

研究要旨

   

 牛,馬の生産性向上を目指し,子牛の管理技術の確立, 牛,馬の周産期疾病の予防や繁殖成績向上のための飼養 管理技術の構築を検討した。
  ・子牛の初乳給与方法の検討においては,牛の血清 IgG1濃度を高めるためには,生後24時間以内,特に 12時間以内に多くの初乳を給与し,また,初回給与 は生後6時間内に行う方が良いことが示唆された。
  ・ 乳牛の分娩前後の管理において,乳牛に少なくとも分 娩14日以上前からメチオニンを含むルーメンバイパス・ アミノ酸製剤を投与することで,周産期に乳牛が陥る とされる負のエネルギーバランスを改善することがで きることがわかった。
  ・ 馬の分娩前後の管理技術について血液プロファイル, 初乳中の移行免疫などを試験評価して新しい分娩前後 の管理技術の構築を検討した結果,分娩前後の栄養低 下が,その後の繁殖成績に影響することが明らかとな った。

   

異なる初乳給与方法が新生子牛の 血清IgG1濃度に及ぼす影響

【目的】 反芻動物の母子免疫の特徴は,初乳を通じての み抗体が移行することである。抗体の移行不足は,新 生子牛の罹患率・死亡率増加の原因となるため,免疫 移行不足(FPT)の基準値(48時間齢の子牛の血清 IgG1濃度が10mg/mL 未満) を基にした様々な初乳給 与方法が研究されている。本研究では,3種類の異な る初乳給与方法を行い,新生子牛の血清IgG1濃度の 変化を比較すること,および初乳の性質や初乳給与の タイミングから,より効果的な初乳給与方法を検討す ることを目的とした。

【材料および方法】 ホルスタイン新生子牛15頭を3グル ープに分け,グループI は4L(2L×2回),グループ II は6L(2L×3回),グループIII は6L(3L×2回)の初 乳を,生後24時間以内に哺乳瓶給与した。給与初乳は 母牛由来のものとし,比重,Brix 値(糖度),乳清 IgG1濃度を測定した。採血は初回給与前を1回目とし, その後は6時間間隔で48時間後まで合計9回行い,血 清IgG1およびTP 濃度を測定した。

【結果】 グループI と比較して,グループII ・III の血清 IgG1濃度は数値的に高い値で推移した。それぞれの 子牛においては,IgG1摂取量が多いほど有意に高い 血清IgG1濃度を示した。また,生後12時間以内の初 乳摂取量が多いほど(2<3<4L),あるいは初回給与 までの時間が短いほど(0~6h<6~12h),生後48時 間における血清IgG1濃度は数値的に高い値を示した。 乳清IgG1濃度は,Brix 値や比重と強い相関関係を示 した。また,血清IgG1濃度とTP 濃度にも強い相関 関係が認められた。

【考察】 牛の血清IgG1濃度を高めるためには,生後24 時間以内,特に12時間以内に多くの初乳を給与し,ま た,初回給与は生後6時間内に行う方が良いことが示 唆された。給与初乳は比重やBrix 値を測定すること によりIgG1濃度の高いもの(Brix 値は20.5%,比重は 1.05以上でIgG1濃度が50mg/mL 以上)を選択するこ とが重要であると考えられた。さらに,FPT の予防 の指標として,血清TP 濃度が6g/dL 以上ならば抗体 の移行が十分であることが示唆された。

ルーメンバイパス・アミノ酸製剤の投与が乳牛の肝臓機 能,泌乳成績および繁殖成績に及ぼす影響に関する研究

【目的】 近年,乳牛の周産期の肝臓機能,泌乳成績およ び繁殖成績の改善のために,ルーメンバイパス・アミ ノ酸製剤の応用が期待されている。1牛群を対象とし て,メチオニンを含むルーメンバイパス・アミノ酸製 剤の投与効果を検討した。

【材料および方法】 搾乳牛約100頭,平均乳量10800kg/ 305日の十勝管内の牛群において,ホルスタイン種乳 牛24頭(対照群8頭,投与群16頭)を対象とした。メ チオニンを100g 中に6g 含むルーメンバイパス・ア ミノ酸製剤(RPMet)を,分娩予定日14日前から分 娩後60日間,1日1回100g ずつTMR へのトップドレ スによって給与した。肝臓機能を評価するため,分娩 後は2週に1回採血し,血液生化学的検査を行った。 また,乳量,乳成分率などの泌乳成績と,空胎日数, 初回黄体確認日数などの繁殖成績を調査し,統計学的 に解析した。

【結果】 RPMet 投与群では,対照群に対し血糖値が有 意に高く,3-ヒドロキシ酪酸(3-HB)は有意に低く推 移した。また,AST 活性値とNEFA の有意な低下も 見られた。また,投与群では乳量,乳糖率,無脂乳固 形分率が数値上で増加したが,両群に有意な差は見ら れなかった。繁殖成績は,投与群で初回黄体確認日数 の有意な短縮がみられた。さらに,分娩前投与期間が 14日以上の群で14日未満の群に対し,血糖値は有意に 高く,3-HB は有意に低く推移した。

【考察】 乳牛に少なくとも分娩14日以上前からメチオニ ンを含むルーメンバイパス・アミノ酸製剤を投与する ことで,周産期に乳牛が陥るとされる負のエネルギー バランスを改善することができる。肝臓機能の改善, 泌乳成績の向上,繁殖成績の改善のために,分娩前か らのルーメンバイパス・アミノ酸製剤の投与は有効で あると考えられた。

分娩後のサラブレッドにおける血 液性状と繁殖成績の関係

【目的】 動物の栄養状態はその繁殖成績に大きな影響を 及ぼす。特に不受胎,胎子の発育不良あるいは流産な どが,不適切な飼養管理を原因とすることも少なくな いと考えられる。近年,「軽種馬飼養標準」に基づく 飼養管理技術が普及されつつあるが,給餌時間や季節 変動などの環境要因に影響され,摂取した養分の吸収 や利用効率には個体差があると考えられている。また, 馬の繁殖と栄養との関連性について十分な検討が行わ れていないのが現状である。そこで本研究では,繁殖 障害を予防するための適切な繁殖牝馬の飼養管理方法 に関する基礎資料を得るために,分娩前後の血液性状 と繁殖成績の関連性について検討した。

【材料および方法】 北海道日高地方の6つの生産牧場に おいて,2006年に分娩したサラブレッド繁殖用牝馬の べ35頭を用い,分娩前後の血清中各種成分を調べた。 採血は分娩予定日(最終交配後335日)1ヶ月前に1回, 分娩後は1~8週まで毎週行った。測定項目は,総蛋 白質(TP),アルブミン(Alb),尿素窒素(BUN), 総コレステロール(T-Cho),遊離脂肪酸(NEFA), 中性脂肪(TG),アスパラギン酸アミノトランスフェ ラーゼ(AST),グルタミルトランスフェラーゼ(GGT), アルカリホスファターゼ(ALP),カルシウム(Ca), 無機リン(iP),マグネシウム(Mg)とした。供試馬 のうち,畜主の都合で種付けをしなかった馬や不慮の 事故で死亡した馬などを除外し,分娩後50日(2回目 発情)までの種付けで受胎した馬を受胎群(19頭), 受胎しなかったものを不受胎群(7頭)とし,2群間 で統計学的分析を行った。

【結果および考察】 年齢および産次数は2群間に有意差 は認められなかったが,不受胎馬の方が高齢,多産傾 向であった。肝機能を評価するために各種逸脱酵素 (AST,GGT,ALP)を測定したが,不受胎馬の方が 低値を示しており,肝機能に問題はないと考えられた。 したがって,肝機能低下に伴う測定値の変動は考慮し なくて良いと考えた。T-Cho,TG は主に脂質代謝に 関連した項目であるが,不受胎馬において分娩後に有 意な低値を示し(T-Cho:分娩後5・7週:p<0.01,TG: 分娩後4週:p<0.01),脂質由来のエネルギー(飼料中 の脂質)不足が示唆された。TP,Alb,BUN は,主 にタンパク代謝に関連する項目であるが,不受胎馬に おいて分娩を中心に有意な低値を示し(BUN:分娩前 ~分娩後3週:p<0.05,TP およびAlb:分娩後5週: p<0.05),慢性的なタンパク不足が示唆された。血中 の無機質(Ca,iP,Mg)濃度は摂取量を直接的に反 映するという報告がある。不受胎馬において試験期間 を通して血中無機質濃度の低値が認められ,摂取量の 不足が示唆された。今回の試験においての不受胎馬7 頭中6頭が2件の農場に集中していたことから,血液 性状の差は農場ごとの飼養管理の違いによることも考 えられた。今後繁殖成績の悪い農場と良い農場の飼養 管理を詳しく調査し,繁殖成績を改善するためのガイ ドラインの作成に努めていきたいと考えている。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
石井三都夫 正しい初乳給与方法へのアプローチ 牛の臨床 1 10ー15 2007
石井三都夫 繁殖雌馬の分娩生理学および分娩誘発について 馬の科学 43(3) 242ー243 2006
異なる初乳給与方法が新生子牛の血清IgG1濃度に及ぼす影響
図1
出生後、できるだけ早い時期に(6時間以内)沢山の(3リットル以上)の初乳を与えることが効果的である。
ルーメンバイパス・アミノ酸製剤の投与が乳牛の肝臓機能、泌乳成績および繁殖成績に及ぼす影響に関する研究
図2
乳牛に少なくとも分娩14日以上前からメチオニンを含むルーメンバイパス・アミノ酸製剤を投与することで、周産期に乳牛が陥るとされる負のエネルギーバランスを改善することができる。
分娩後のサラブレッドにおける血液性状と繁殖成績の関係
図3
分娩前後の栄養低下が、分娩後の繁殖成績に影響を与える。