食料生産動物である乳牛の健康を担保する獣医療技術開発

 

研究室 大動物巡回診療研究分野
Lab for Food Animal Medicine
事業推進担当者 山岸 則夫(Norio Yamagishi)
異動先(異動先ポジション) 岩手大学農学部獣医学科,大動物診断診断治療学研究室(助教授)

 

研究要旨

   

 動物性蛋白質資源の一つである乳の安全確保のために は,その生産動物である乳牛の飼育段階での健康を担保 することが必要である。本研究では,乳牛の主要疾患で ある周産期疾病ならびに乳房炎の防除法に関する技術開 発を目的として,各種研究を行った。
  本研究によって,周産期疾病の発生メカニズムが解明 され,これの防除法が開発された。さらに,周産期疾病 の制御によって生産性が著しく向上した。また,食中毒 の起因菌でもある黄色ブドウ球菌による乳房炎のスクリ ーニング法を開発し,その臨床応用上の有用性が確立さ れた。

   

乳牛群における周産期疾病コント ロール技術の開発

 左膁部(腰椎横突起から下腹)の触診による第一胃内 容の充満程度(第一胃内容量)を評価し,分娩後疾病発 生との関係を調べた。分娩後疾病の発生牛では分娩1週 間前からすでに第一胃内容量が少なく,分娩前から食い 込みが悪い牛ほど分娩後疾病を発生し易いことが判明し た。いっぽう,分娩後に第一胃内容量が少ない乳牛では, 初回授精日数,初回授精による受胎成否および空胎日数 などの繁殖成績はいずれも悪く,食い込みと繁殖効率と は密接に関係することが示された。
  牛用強制経口投与装置を用いて分娩直後乳牛にバケツ 1杯(14ℓ)または2杯(28ℓ)の一定内容成分の溶液 を投与し検討した。バケツ2杯では分娩直後の食い込み 低下が抑制され,エネルギー不足の指標(血清FFA 上昇) も抑制された。大容量溶液の強制経口投与では,第一胃 が備える生理的反射により食い込みを刺激すると考えら れた。

乳牛の分娩性低カルシウム(Ca) 血症の病態解明と予防法開発

 分娩性低Ca 血症は乳牛の分娩時に多い代謝性疾患で, 泌乳開始に伴う急激なCa の喪失が主因である。この程 度が激しい場合は起立不能症を発症し,死廃の転帰を辿 る。我が国では約170万頭の乳牛が飼養されており,そ の約1割が分娩後起立不能の治療を受け,その約1割が 死廃となっている。
  Ca 不足時には,消化管ではCa の能動的な吸収が盛 んであり,その制御因子である各Ca 輸送関連タンパク 質を解析した。我々の研究によって,乳牛の消化管粘膜 における(1) CaBP9k 遺伝子は小腸近位に特異的に発現し, 小腸全域や結腸の一部で発現する単胃動物に比べ限局し ている(すなわち,単胃動物よりもカルシウムを能動的 に吸収できる領域が狭い)こと,(2) 各Ca 輸送関連タン パク質の遺伝子発現量は月齢や活性型Vitamin D(VD) の影響を受けることを明らかになった。
 さらに,分娩性低Ca 血症の予防法開発の目的で,活 性型VD であるカルシトリオールの分娩乳牛への投与試 験を行った。PGF2αによる分娩誘発法を併用した分娩 前12~48時間でのカルシトリオール1回筋肉内投与は血 漿Ca 濃度を高く保つ状態で乳牛を分娩させ,血漿Ca 濃度が最も低下する分娩直後での低Ca 血症予防に効果 を有することが示唆された。いっぽう,カルシトリオー ルが乳牛の膣粘膜から吸収されることを見出し,膣内投 与も可能であることが示唆された。

乳牛の乳房炎防除技術の開発

 乳房炎は乳牛群において多発する感染性疾患であり, とくに黄色ブドウ球菌(SA)による伝染性乳房炎は抗 生物質に対する治療効果は乏しく牛群内に蔓延し易いこ とから,家畜衛生上問題である。我々は,牛群のSA 乳 房炎罹患乳房を高度なスクリーニング方法として,PCR を応用した高感度SA 検出法(Broth-PCR 法;乳汁を 7.5% 食塩加液体培地にて一晩選択増菌した菌液から DNA を抽出し,SA 特異的なnuc 遺伝子領域をPCR に て増幅・検出する方法)を開発した。一般に細菌学的検 査法による乳汁中のSA 確定には2~3日を要し,その 検出感度は101~102CFU/mL 以上である。Broth-PCR 法では17時間以内で確定可能であり,検出感度は 100CFU/mL であった。
  一般酪農家で飼養されている乳牛120頭のうち62頭92 分房で簡易検査にて乳房炎の疑いがあった。一般的な細 菌培養検査では,そのうち41頭55分房において菌が検出 され,SA は6頭6分房で検出された。一方,Broth- PCR 法では7頭9分房でSA 検出され,細菌培養検査 より多い頭数・分房数であった(表1)。Broth-PCR 法 の検査成績に基づいて乳房炎対策(搾乳衛生指導,計画 的淘汰,抗生物質治療)を実施したところ,半年後には 牛群からSA 罹患牛は排除され,出荷バルク乳中の体細 胞数も低下した。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
Okura, N., Yamagishi, N., Naito,
Y., Kanno, K. and Koiwa, M.
Vaginal absorption of 1,25(OH)2D3
in cattle
Journal of Dairy Science 87 2416ー2419 2004
Yamagishi, N., Ayukawa, Y., Lee,
I., Oboshi, K. and Naito, Y.
Calcium metabolism in cows receiving an intramuscular injection of 1,25-dihydroxyvitamin D3 combined with prostaglandin F2α closely before parturition Journal of Veterinary Science 6 165ー167 2005
Takagi, M., Yamagishi, N., Lee, I.
H., Oboshi, K., Tsuno, M. and Wijayagunawardane,
M. P. B.
Reproductive management with ultrasound scanner-monitoring system for a high-yielding commercial dairy herd reared under stanchion management style Asian-Australian Journal of Animal Science 18 949ー956 2005
Yamagishi, N., Miyazaki, M. and
Naito, Y.
The expression of genes for transepithelial calcium-transporting proteins in the bovine duodenum The Veterinary Journal 171 363ー366 2006
Yamagishi, N., Jinkawa, Y., Omoe,
K., Makino, S., Oboshi, K.
Sensitive test for screening Staphylococcus aureus in bovine mastitis by broth-cultivation and PCR The Veterinary Record     in press
乳牛における周産期疾病の発生メカニズムとモニタリングのポイント
図1
Broth-PCR法によるSA検出感度(Yamagishi and others, in press)
図2
M, 100-bp size marker; NC, negative control; 0 ~ 105, 0 ~ 105 cfu/ml.