原虫・宿主相互細胞機能の免疫病理学的研究

 

研究室 高度診断学分野
Lab for Molecular Diagnosis
事業推進担当者 横山 直明(Naoaki Yokoyama),五十嵐郁男(Ikuo Igarashi)

 

研究要旨

 バベシア原虫は宿主動物の赤血球内に寄生し、増殖・破壊を繰り返すことで、宿主に発熱、貧血、及び血色素尿等の病態を引き起こす。バベシア原虫と宿主赤血球膜あるいは外部環境因子との関わりを分子レベルで理解することは、バベシア原虫による独特な寄生戦略を生物学的に理解する上で重要となるばかりか、治療薬やワクチンを開発していくための新たな制圧戦略を構築していく上で不可欠となる。本研究計画において、1)バベシア原虫が赤血球に侵入していく際の宿主側赤血球膜因子との関わり、2)バベシア原虫が赤血球に侵入し増殖していく際の外部環境因子との関わり、3)バベシア原虫の赤血球内増殖を制御できる新規薬剤の探索についてそれぞれ検証し、バベシア原虫は宿主赤血球膜因子や外部環境因子を如何にして活用し、寄生と増殖を成し遂げるのか、またそれらを制御するためにはどのような薬剤がふさわしいのかを検証していった。

バベシア原虫が赤血球に侵入していく際の宿主側赤血球膜因子との関わりについて

 ウシ及びウマバベシア原虫の試験管内培養を活用して、バベシア原虫が赤血球に侵入していく際の宿主側赤血球膜因子との関わりを検証した。その結果、1)バベシア原虫は宿主赤血球膜と吸着できる原虫因子を持っていること、2)赤血球外のメロゾイトは赤血球膜上のヘパラン硫酸様分子を認識して赤血球に侵入している可能性があること、3)赤血球外のメロゾイトは赤血球膜上のシアル酸付加糖蛋白質を認識して赤血球に侵入していること、4)一部のバベシア原虫はシアル酸がない赤血球にも侵入できるが赤血球内での分裂ができないこと、5)赤血球内及び赤血球外の原虫は赤血球膜上にあるべきシアル酸分子と膜脂質を常に虫体外に纏っていること、6)赤血球膜成分であるコレステロールは、バベシア原虫が赤血球に侵入していく際並びに赤血球内で分裂する際、ともに必要であることなどが明らかとなった。以上の成果から、原虫と宿主赤血球膜間でいくつかの特異的分子相互作用を成立させて赤血球侵入を果たし、また赤血球へ侵入した後も赤血球膜に纏われながら分裂していく新知見を得ることができた。

バベシア原虫が赤血球に侵入し増殖していく際の外部環境因子との関わりについて

ウシ及びウマバベシア原虫の試験管内培養を活用して、バベシア原虫が赤血球に侵入していく際の外部環境因子との関わりを検証した。まず、1)無血清培地によるバベシア原虫の試験管内培養法を確立し、無血清培地下のバベシア原虫の増殖能は血清培地のそれとほぼ同じであることを証明した。また、2)下記に紹介するいくつかの薬剤の原虫増殖阻害効果を両培地下で比較したところ、無血清培地下での薬剤感受性が高く、血清中に含まれる未知の因子が外部環境からの刺激を干渉していることが判明した。さらに、3)カルシウムイオンのキレート剤であるEGTAを培養中に添加し外部カルシウムイオン濃度を低下させた場合、赤血球外メロゾイトの赤血球侵入能が阻害されることが明らかとなった。以上のことから、外部カルシウムイオン濃度に依存して原虫は赤血球侵入を果たし、また血清因子に保護されながら原虫は増殖していくものと考えられた。これらの成果は新規薬剤のスクリーニング法の改良やバベシア原虫の赤血球侵入及び赤血球内増殖の分子メカニズムの解読に有益となる。

バベシア原虫の赤血球内増殖を制御できる新規薬剤の探索について

 ウシ及びウマバベシア原虫の試験管内培養を活用して,赤血球内増殖を制御できる新規薬剤を探索した。その結果,1)ヘムの重合化を阻害するArtesunate,2)原虫のdihydrofolate reductase を標的とするPyrimethamine,3)カルモジュリン阻害剤のPamaquine,3)脂肪酸合成経路のenoyl acyl carrier protein reductaseを標的とするTriclosan,4)チトクロームP450系を標的としたClotrimazole やKetoconazole,5)ヘモグロビン異化を阻害するClodinafop-propargyl,6)メロゾイト膜に吸着し赤血球侵入を阻害するHeparin,7)L-lactate dehydrogenase 活性を阻害するGossypol,8)serine/threonine protein kinase,protein kinase C,及びcalcium-modulin kinaseserine/threonine protein kinaseをそれぞれ阻害するStaurosporine,Ro-31-7549,及びKN-93,9)カルシウムイオンのキレート剤であるEGTA,10)コレステロール除去剤であるMCD,11)Cyclin-dependent kinase を標的とするroscovitine,purvalanol A,CGP74514A,及びCDK2 Inhibitor II がバベシア原虫の赤血球内増殖を抑えることが分かった。

発表論文

著者名
論文タイトル
掲載雑誌
ページ
発行年
Okamura, M., Yokoyama, N., Wickramathilaka, N. P. A. L. K., Takabatake, N., Ikehara, Y., and Igarashi, I. Babesia caballi and Babesia equi: Implications of host sialic acids in the erythrocyte infection. Exp. Parasitol.  110 406-411 2005
Okubo, K., Wilawan, P., Bork, S., Okamura, M., Yokoyama, N., and Igarashi, I.  Calcium-ion is involved in erythrocyte invasion by equine Babesia parasites. Parasitology  133 289-94 2006
Okamura, M., Yokoyama, N., Takabatake, N., Okubo, K., Ikehara, Y., and Igarashi, I. Modification of host erythrocyte membranes by trypsin and chymotrypsin treatments and effects on the in vitro growth of bovine and equine Babesia Parasites. J. Parasitol.     in press
Okubo, K., Yokoyama, N., Takabatake, N., Okamura, M., and Igarashi, I. Amount of cholesterol in host membrane affects erythrocyte invasion and replication by Babesia bovis.  Parasitology     in press
Okamura, M., Yokoyama, N., Takabatake, N., Okubo, K., Ikehara, Y., and Igarashi, I. Babesia bovis: Subcellular localization of host erythrocyte membrane components during their asexual growth. Exp. Parasitol.     in press
バベシア原虫による赤血球侵入機構を理解する
図1
赤血球外メロゾイトは、1)attachment、2)reorientation、3)formation of tight junction、4)penetrationへと続く多段回な行程を経てすばやく宿主赤血球内へ侵入していく。
メロゾイトと赤血球間の分子相互作用を解明し、侵入阻止型ワクチンや治療薬の開発へ繋げる
図2
赤血球外メロゾイトが分泌する原虫因子と赤血球膜受容体間で複雑な分子間相互作用を形成し、メロゾイトは赤血球侵入を果たす。この分子間相互作用を遮断する特異抗体あるいは薬剤の同定がバベシアの制圧戦略構築の鍵を握る。