プログラム概要

世界食料サミットでも提唱されているように,世界的規模での畜産振興及び動物性蛋白質資源確保の基本理念は,我が国のみならず世界人類の健康保持及び食料の安定的供給にある。21世紀に向けて,人類が十分な動物性蛋白質を確保するためには,アフリカ,アジア,南米地域での家畜の生産向上が必要とされている。例えば、開発途上国では約10億頭の牛が飼育されているが、ピロプラズマ病やトリパノソーマ病などの寄生虫・原虫病感染による経済的被害が1兆数千億円に達すると推定されている。そのため原虫病の対策は世界の多領域の研究分野で遂行されているが,いまだ完全な予防薬及び治療薬は存在しない。さらに,原虫病は,単に,家畜の生産性低下の主因となっているのみならず,人畜共通感染症として,開発途上国はもとより先進国においても重要な公衆衛生上の問題となっている。特に,人口の高齢化及びエイズ,臓器移植等免疫機能の低下または抑制を伴う症例の増加に伴い,いまや死因の重要な一要素となり,その解決は焦眉の急となっている。したがって,原虫病の予防と治療法の確立は,獣医・畜産学分野ばかりではなく医学の分野にも共通の緊急な課題である。また,BSE問題に端を発した動物食肉乳製品の安全確保は,日本国民の一大関心事となっている。

このような状況にいち早く対応し,問題の解決を計るために,帯広畜産大学には,1990年に国内獣医系16大学唯一の学内共同利用施設として『原虫病分子免疫研究センター』が設置され,家畜の原虫病対策,特に,予防・治療法開発及び原虫病抵抗性に関する分子免疫学的研究が鋭意進められた。そして,10年間の研究成果を基盤に,平成12年度からは,全国共同利用施設としての『原虫病研究センター』が新設され,国内の研究者はもとより海外の研究者との共同研究を積極的に展開している。

本プログラムでは,人畜共通原虫病対策,特に,予防治療薬及び家畜の原虫抵抗性遺伝子開発の基礎研究を一層飛躍的に進展させるために,近年発達の著しい遺伝子工学および発生工学の手法を導入し,それぞれの分野の先端研究科学者の力を結集して家畜原虫病に関する中核的研究拠点を形成し,研究を推進することを計画した。すなわち,それぞれの原虫について,その病原性や宿主の感染防御機構を分子レベルで究明し,その成果に基づき遺伝子工学および発生工学による新たな耐病性動物の作出と診断法や感染防御方法の開発および原虫病を媒介するベクターの制圧を目指す総合的研究を推進する。更に,大動物畜産衛生学研究に実績を有する学内研究者の全面的支援により,「動物性蛋白質資源の生産向上と食の安全確保」の目標に向かって,我が国の獣医畜産学系研究者をはじめ,世界の一流研究者をも招聘して国際共同研究を展開し,名実共に卓越した世界における獣医原虫病研究拠点の確立を目指して研究を遂行し,その成果をもって人類の福祉に貢献することを目的とする。