![]()
食の安全と安心
帯広畜産大学長 鈴 木 直 義
21世紀は「知の世紀」と言われる。学問,文化の継承と創造を通じて,「知」をリードする大学の役割への期待は今後益々高まっていくに相違ない。国公私立を問わず全ての大学への競争原理の導入である21世紀COEプログラムは,国立大学法人化を間近に控えた,しかも,地方単科大学の本学にとっては,大学の生き残りを左右する大きな試金石となった。
地球規模で考えるとき,21世紀における世界人類の動物性蛋白質資源は現状では確実に不足する事は衆知の事実であり,すでに開発途上諸国で飢餓状態の地域が現存することも良く認識されて久しい。世界の乳肉家畜飼育頭数の70%以上は,開発途上国において飼育されているが,その生産は先進国の30%にしか過ぎない。その主原因は各種微生物感染症であり,50%以上が原虫病を主体とした寄生虫感染病による被害である。一方,我が国においては,近年,BSE,食中毒事件,食肉産地偽装事件,残留農薬等々,食の安全を巡る諸問題が続発しており,グローバル化や生産の大量化が進むなかで日本を始めとする先進諸国の消費者が,かつて無いレベルで「食の安全確保」に注意を払い出している。
帯広畜産大学は日本の食料基地である北海道十勝に立地し,特色ある実学重視の教育研究を進展させるとともに,世界の農畜産業の発展に大きく貢献してきた。本学の獣医学及び畜産学分野の研究者数は全国一であり,21世紀COEプログラムの課題は「動物性蛋白質資源の生産向上と食の安全確保-特に原虫病研究を中心として-」である。原虫病研究センターにおける研究業績あるいは社会貢献については,国内はいうまでもなく国際的にも大いに評価されている。更に本学が,家畜生産,食品加工,流通・販売を含む「農場から食卓まで」の過程における「食の安全と安心」の確保に貢献するためには,本学研究者の英知を集めたトランスレーショナル研究あるいは開発研究成果が,グローバル社会の要請に即して活用される体制の確立が重要である。したがって,本学は食の安全監視分野におけるこれまでの研究成果を基盤に研究教育をさらに発展・深化させ,家畜生産現場から消費者の諸問題に中立的に対処する立場を確立し,科学的根拠に基づくリスク評価の社会的信頼性を高めるという課題に挑戦し続ける必要がある。
本学の最終到達目標は,動物由来食品の「安全と安心」の確保に「知」のリーダーシップが存分に発揮されるような大学院重点化単科大学として存立することである。今回のCOEプログラムを起爆剤として,「健康動物生産から食品加工」の安全監視に最も重要な人畜共通特殊疾病の診断・予防・治療法確立のための高度専門機関として,また,食品安全科学分野における大学院修士課程及び博士課程の設置により,動物由来食品の生産,加工,流通・販売に至る一連の過程においてリスク分析・評価の考えを導入し,家畜衛生,食品衛生及び環境衛生を統合した畜産衛生分野に関する専門職業人の養成による社会貢献を推進していきたい。社会が大学に求めている「食の安全と安心」に係わる人材育成及び社会人再教育の基盤は,職業倫理,動物福祉等の人格教育をベースに,国際感覚及び経済・経営感覚を十分に醸成することにある。そのことによって,帯広畜産大学は高度な総合的研究成果と専門職業人育成による「動物性食肉乳製品の安全監視」に関するアジアにおける最高水準の研究教育組織の地位を目指したい。