食品安全に関する国際的フードシステムの構築に関する研究

代表研究者:金山紀久
共同研究者:伊藤 繁,仙北谷康,耕野拓一

研究課題の背景・目的

 近年多発した食 品の安全性を脅かす諸事件は,安全性を担保したフードシステムが十分に確立されておらず,その研究にも残された課題が多いことを示した。われわれは社会科 学的な視点からの研究を通して,畜産物を対象とした食の安全確保と生産性向上を達成するために,いかなる条件・制度・組織の存在が必要であるのかを明らか にする。これによって食の多様化,グローバル化が進展する中,安全性が担保された食品の効率的な供給に対応したフードシステムモデルの構築が可能になる。

研究課題の概要

1.安全性が担保されたフードシステムモデルの構築に関する研究

研究の概要1  農産物は生産現場から加工,流通,小売・外食と多段階を経て最終的に消費者の手にわたる。最終的に消費される食品の安全性確保には,川上から川下まで各段 階での危機管理に加え,フードシステム全体としての連携が不可欠である。われわれは特に,畜産物の生産段階である農場レベルに着目し,農場でのHACCP的手法による衛生管理システムの導入とその条件,今後の展開の可能性について,サプライチェーンの考え方をベースに先進諸国の事例と比較しながら分析を行う。この研究により,安全性の確保された効率的な畜産物のフードシステムモデルの提示を試みる。

 なお,安全性の国際基準については,地域の文化的・宗教的・社会的背景の違いに起因する食生活の多様性を鑑みれば,画一的な基準を設けることは適切ではない.多様性を保ちつつ国際的ハーモナイゼーションの潮流に応じた安全基準とフードシステムモデルの構築を目指す。

2.途上国における家畜衛生経済学

研究の概要2  多くの途上国においては,所得の増加に伴い畜産物への需要は増加傾向にあるが,生産効率は低く,飼養技術の拡充や家畜の疾病のコントロールを通した生産性 向上が必須課題となっている。しかし,現段階では家畜の衛生や疾病に対する意識や知識は低水準にとどまっており,衛生的な管理体制のもとで畜産物の生産が なされているとはいえない。そこでわれわれは,アジア諸国を中心に,家畜疾病の発生状況と家畜の栄養や品種改良を含めた農家や関連組織の家畜疾病対策,家 畜の罹患による経済的損失,各国の畜産物をめぐるフードシステムの構造等について調査を行い,家畜疾病が社会に与えた被害や,疾病のコントロールによる効 果を定量的に明らかにする。これらの分析を通して,畜産物の生産性向上と,諸国の経済的発展段階や社会的背景に則した効率的な飼養管理体制モデルの構築を 図る。

得られた成果

1.食品安全性に対する消費者意識に関する研究

 商品選択実験を 応用することにより,消費者の牛乳の安全性に対する評価を,栄養や味,価格など牛乳を選択する際に消費者が基準とする商品特性に対する評価との関係で分析 した。消費者の食品の衛生管理に対する相対的な評価を確認しておくことは,フードシステムにおいて効率的な衛生管理体制を構築する上で不可欠である。これ により,消費者の好みは多様であること,消費者が加工段階の追加をリスク発生要因の一つとみていること,HACCPラベルの貼付された商品をより安全性の高い商品だと認識していること,適切な情報提供を行うことが有効であること等が明らかとなった。

2.農場レベルのHACCP的衛生管理導入に関する研究

 畜産物の生産段階において,HACCP方式の考えに基づく衛生管理方式の導入推進を図る「畜産物衛生管理対策事業」の北海道における先進事例と早くから牧場レベルにおける衛生管理方式を構築している豪州の事例分析を行い,今後のわが国における農場HACCPの展開方向を示した。具体的には,豪州では,と畜場の声明により全国出荷者証明(NVD:National Venders Declaration)の提出がほぼ義務化されたことがNVDの急速な浸透に向かわせたことが明らかとなった。一方,農場段階の衛生管理レベルにばらつきが認められる現在の日本については,導入が義務化されるトレーサビリティーシステムに加えて,農場HACCPの導入による衛生管理の拡充という付加情報を提供できることは,差別化戦略の一環として有効であることが示された。

3.リスク発生の社会経済的要因に関する研究

 牛乳・乳製品の フードシステムの分析により,雪印乳業の食中毒事件発生の経済的背景を明らかにした。具体的には,牛乳・乳製品の加工部門が高い集中度をもつ市場構造にあ り,特に上位3社の競争が激しく,その中で市場占有率の最も高かった雪印乳業の売上高及び営業利益率の減少が顕著で,厳しいコスト削減圧力の存在が,衛生 管理上の問題を引き起こした複合要因の一つであることを明らかにした。

今後の展望

 農場レベルにおけるHACCP的 衛生管理システムに関する研究により,フードシステムに対する適切なリスク認識のあり方と効率的な衛生管理体制の構築を容易にすることが期待される。ま た,後発国の導入に際して雛型を提供できることになり,後発国でのスムーズな導入が可能となる。途上国での家畜疾病コントロールに関する研究においては, 地域ごとに飼養技術や文化・社会的背景を考慮した衛生管理体制を確立することにより,畜産物の生産性向上がはかられると期待する。比較的食文化の類似した アジアを中心に,安全性の確保された畜産物供給の達成に向け,効率的なフードシステムモデルの構築を目指す。

A study of the development of a globalized food system with special reference to food safety

This project focuses on the adoption of a standardized hygienic management system, such as the on-farm Hazard Analysis Critical Control Point (HACCP) program in the Japanese livestock industry, and the effect of animal disease control in developing Asian countries from a socio-economic perspective. Through this research we have tried to identify efficient food system structures and legislative activity that can improve livestock productivity and enhance the level of food safety.

1. A study of a food system model with reference to the farm-level hygienic management system in Japan

A series of food safety scandals that recently hit the Japanese food industry has revealed that the food system has many problems delivering safe products and further long-term academic research on the problem must begin immediately. In order to develop a "from farm to table" food safety system, coordination among the participants in the supply chain is essential. In addition, a risk management system must be implemented at each production stage. This study focuses on a livestock farm, where hygiene controls were relatively lax. Based on the idea of supply chain management strategy, we have tried to clarify the conditions necessary to introduce a global standardized farm-level hygienic management system. One of our goals is to identify the level of risk awareness of the relevant parties in the food system and promote an economically efficient hygienic enforcement system.

2. A study of animal disease and productivity in developing Asian countries

In developing countries, consumer demand for animal products has been increasing with the growth in disposable income, however productivity is still at a low level. Therefore, improving productivity through animal disease control and the modernization of the livestock industry is essential. In this study, we first conducted a country-by-country survey on the incidence of animal disease, disease control methods, (including animal nutrition and breed improvement), and the livestock industry feed system We then calculated the effect of disease control, taking into account the circumstances of each country, on improving productivity. Another aim of our research is to generate practical policy recommendations to improve the livestock industry management system, including the strategies to animal disease controls that match each country's stage of economic development, animal husbandry technology, and socio-cultural background.