食肉,乳・乳製品の生産・流通における衛生情報管理システムの開発感染防御因子としてのミルクオリゴ糖の精製ならびに利用に関する研究

代表研究者:浦島 匡
共同研究者:中村 正

研究課題の背景・目的

 哺乳動物の乳汁 に含まれる糖質は,通常80%以上が2糖のラクトースであるが,数%~20%の範囲でミルクオリゴ糖といわれる複雑なオリゴ糖群も存在している。牛乳中の ミルクオリゴ糖は,常乳中には痕跡程度しか含まれていないが,初乳にはシアル酸(9個の炭素とカルボキシル基を含む酸性単糖)を結合したミルクオリゴ糖が 1g/Lの高濃度で含まれている。これらのミルクオリゴ糖には,病原性細菌やウィルスが上皮に付着するのを阻止し,感染防御に関与する機能が示唆されてい る。本研究課題では,各種動物のミルクオリゴ糖を定性・定量分析するとともに,利用可能なミルクオリゴ糖の大量調製方法を検討して,安全性の高い疾病予防 薬や機能性食品の開発など製薬,食品産業への応用を目的として行うものである。

研究課題の概要

1.産業家畜(ウシ, ヤギ, ヒツジ)の初乳より分離したミルクオリゴ糖を,抗感染薬・機能性食品開発の原料として利用可能なものにするため, 簡易かつ大規模スケールでのクロマトグラフィー方法の組み合わせによって大量調製できるシステムの開発を行う。調製したミルクオリゴ糖は,種々の誘導体化を行い各種レクチンとの親和性や細菌, ウィルスとの結合能を解析に用いるとともに,ポリマーやタンパク質への固定化による感染治療・予防薬, 食品機能性素材としての利用性を検討する。

2. 絶滅の危機に瀕している野生動物を人工繁殖下で保護するためには,人工調合乳の開発が必要である。そのために,それらの乳成分についての多岐にわたる情報 が必要とされる。国内外の研究機関より提供を受けた各種動物の乳の成分分析を行うとともに,これまで情報のほとんど得られていないミルクオリゴ糖の分離・ 精製および構造決定を行うことで,各種動物の乳に関する総合的な情報を提供する。

3. 乳成分は動物種間や泌乳時期によって大きく異なることが知られている。ミルクオリゴ糖の生理的意義を明らかにし,牛乳を原料とするヒト用育児用調製乳の改 良を行うためには,100種類以上あるヒトミルクオリゴ糖含量の泌乳時期ごとの変動に関する基礎的な知見が必要である。この目的から,各泌乳期の人乳から 抽出した糖質画分の誘導体化後にHPLCで定量分析を行い,ヒトミルクオリゴ糖の各泌乳期における変動についての情報を提供する。

研究課題の概要

得られた成果

1.産業動物の乳からのミルクオリゴ糖の簡易・大規模調製システムの開発

 機能性素材であ るミルクオリゴ糖を分離する原料として,ウシ初乳の有用性を調べる目的で,分娩前から分娩直後, 常乳期に至るまで一定時間ごとに採乳し,3種のシアリルオリゴ糖の定量を行った。その結果,主要オリゴ糖としての3’-N-アセチルノイラミニルラクトー スは,分娩直後乳に最大で800mg/L以上含まれるが,2日目以降に急減することが明らかになった。また,ウシ初乳,ヒツジ初乳から,活性炭クロマトグ ラフィーとフラッシュクロマトグラフィーの組み合わせで,200mg以上の3’-N-アセチルおよびN-グルコリルノイラミニルラクトースを分離・精製す るシステムの開発に成功した。現在,分離したオリゴ糖を,帯広畜産大学原虫病研究センター, 大動物特殊疾病研究センターに提供し,マラリア原虫バベシアのグライコフォリンや各種病原性細菌のレセプター解析に使用している。

 一方,産業家畜ではないが,ミルクオリゴ糖含量の高いワラビーの乳から分離したミルクオリゴ糖を国内外の研究機関に提供し,各種レクチンの糖鎖に対する親和性の解析に利用している。

2.野生動物乳に含まれるミルクオリゴ糖の定性分析

 ミンククジラ, ベルーガ, ゼニガタアザラシ, ジャイアントパンダ, シロクマ, アゴヒゲアザラシのミルクオリゴ糖の定性分析を行い,新規糖鎖を含む多種類の化学構造を決定した。その中で,パンダやシロクマの乳にはウシなどの家畜の乳や人乳中の主用糖質であるラクトースよりも,イソグロボトリオースが豊富に含まれることが明らかとなった。また, アザラシの乳にはH抗原をもつオリゴ糖が多種類含まれることなどが明らかになった。

3.各種中性ならびに酸性ヒトミルクオリゴ糖の泌乳時期ごとでの定量分析

 分娩後4日, 10日,30日,90日の人の乳において,11種の中性オリゴ糖および6種の酸性オリゴ糖の定量分析を行い,各オリゴ糖含量が泌乳時期の経過とともに固有の変動パターンを示すことを明らかにした。

今後の展望

シアリルラクトースとシアリルラクトースラクトン  帯広周辺地域には,10000頭以上のウシを飼育する酪農家(メガファーム)が多数ある。例えば,大樹町には数軒のメガファームがあるが,そこで生産され る分娩後1日以内の初乳を回収すれば,年間数千リットルの初乳の利用が可能である。これを原料とすれば, キログラム単位でのシアリルラクトースの調製が可能となる。これら初乳の有効利用のためには,簡易・大規模分離システムの一層のスケールアップ化ととも に,応用面における機能性食品素材・創薬素材としての利用の可能性の探求のために,各種の病原性細菌・ウィルス・原虫のホストへの付着阻止などの基礎的知 見も必要である。一方,帯広周辺地域にはヤギやヒツジを飼育する農家もあり,その初乳からはウシミルクオリゴ糖とは異なる各種のミルクオリゴ糖を分離する ことができる。これら一連の取り組みによって,従来にはない高付加価値での初乳の先端的利用が促進され,莫大な経済効果が生み出される。

Studies for the preparation of oligosaccharides from milk/colostrum and their use to combat infection

Although the dominant carbohydrate in mammalian milk or colostrum is generally a disaccharide, lactose [Gal(β1-4)Glc], the fluids contain a variety of other oligosaccharides as well. For example, bovine colostrum contains 1 g/L of sialyloligosaccharides, which are suggested to inhibit the attachment of pathogenic microorganisms and bacterial toxins in the intestinal tracts of newborns. In this project, we will characterize and determine the oligosaccharides in milk and colostrum of humans, domestic mammals, and wild mammals. We will develop methods for the simple and large-scale preparation of milk oligosaccharides from the colostrum of domestic mammals in a industrial scale. A further objective will be to manufacture anti-pathogenic drugs as well as functional foods using these oligosaccharides as materials. This research is expected to produce enormous economic benefits in dairy industry.