家畜生産衛生の改善に関する研究

代表研究者:宮本明夫
共同研究者:大谷昌之,手塚雅文,左  久,大星健治

研究課題の背景・目的

 乳牛は人類が家 畜化を進めてきた結果,出産直後から乳を大量に出し続けると同時に,まもなく再び妊娠して子宮内で胎児を育てながら泌乳し続けるという,極めて特殊な生殖 生理的環境で生育している。このことが母体に多大な負荷を与え,出産後の2ヶ月間には,母体は感染症を含む多様な疾病に侵されることが多い。結果として, 酪農家の経済的損失の7割以上がいわゆる周産期病(胎盤停滞や卵巣機能不全,ケトーシス,第四位変異,乳房炎,蹄病等)に関係している。そこで,本研究プ ロジェクトでは,酪農現場の現状を見据えた上で,基礎的な栄養・生殖内分泌学の検証の上に乳牛の繁殖飼養に関する群管理システムの構築を進める。一方,十 分な条件で飼養管理されたウシの卵巣機能の潜在能力を最大限に生かした新しい生殖・成長技術の開発を行う。

研究課題の概要

1.乳牛の生産衛生に関する新しい群管理システムの構築については,本学畜産フィールド科学センターと民間のモデル農場で集中的に進めている。

1)乳中の生理活性物質による乳房炎発生予防法の開発

2)乳牛群の繁殖成績向上を目指した新しい分娩後繁殖管理システムの構築

3)健康な乳牛群の維持のための新規総合プロファイルテスト系の確立と生産管理システムの構築

2. ウシ生産性向上のための新しい生殖・成長技術の開発については,以下に大別される。

1)ウシ卵巣内の血管新生と血管機能の調節による卵巣機能促進

2)雌ウシの潜在能力を利用したホルモン処置を使わないダブル排卵モデルの構築

3)ウシ卵巣における“ストレスホルモン”糖質コルチコイド作用調節機構

4)国内未利用の飼料資源による泌乳性および産肉性向上とその内分泌機構

得られた成果

1.乳牛の生産衛生に関する新しい群管理システムの構築

 多頭数の乳牛について,分娩前から分娩後の人工授精による受胎時までの詳細な飼養管理と卵巣状態に関する個体情報と血液試料を経時的に収集している。現在,血中のインスリン,IGF-1, 肝機能マーカーを含む栄養生理的指標とともに,生殖ホルモンの測定が進行中であり,全ての情報を包括的に解析する予定である。これらの解析結果から,新し い分娩後繁殖管理システムの構築と新規総合プロファイルテスト系の確立への展望を得たい。また,乳房炎の予防法については,分娩前からラクトフェリン(乳 中にもともと含まれる機能性生理活性物質)を乳頭内に直接投与して,乳房内の免疫環境がどのように改善されるかについて調べている。実際,これまでにラク トフェリンの乳房炎発症予防効果を示唆する結果が得られている。本効果の基礎的な裏付けを急ぐ。

2.ウシ生産性向上のための新しい生殖・成長技術の開発

 乳牛についてのこれまでの主な成果を以下に列記する。

1)成熟卵胞基底部の血流がLHサージ直後から急激に増加し,排卵直前でピークに達することをカラードップラー超音波画像診断装置を用いて初めて視覚的に示した。

2)同様に,発情周期中のウシ卵巣で起きる第1卵胞波における個々の卵胞基底部の血流を経時的に初めて観察し,血流の有無が卵胞の将来と一致していることを視覚的に示した。

3)排卵直後から開始する排卵点での活発な血管新生が,顆粒層細胞が黄体化しながら大量に分泌する血管新生因子であるVEGFによって誘導されることを細胞培養系で示した。

4)排卵後にhCGを投与すると,排卵点で起きている血管新生を刺激し,結果として通常より大型の黄体が形成されることを示唆した。

5) 黄体が自然に退行する際に,黄体内の血流が2度にわたって増加することを発見した。この現象は,黄体退行カスケードの最上位に位置すると考えられるが,本 現象の調節に関わる遺伝子群をリアルタイムバイオプシーで特定し,この調節分子機構を明らかにすることで,確実に黄体が退行する(黄体の死)局所環境を限 定する作業が進行中である。

6)卵巣に局所の糖質コルチコイドシステムが存在することを示した。

 以上のように, 卵巣機能に関して,特に血管新生と血管機能が卵巣機能にどのように関わっているかについて,独自に開発した乳牛の生体を用いた卵巣機能解析モデルを中心に して,新しい多くの証拠を示してきている。今後,血管リモデリングと血管トーヌスの卵巣機能との直接的な関わりについて実験的な証明と,糖質コルチコイド を中心とした卵巣・卵管・子宮内のグルコース取り込みに関係する分子機構に関する普遍的な概念の確立を目指してプロジェクトを展開する。

今後の展望

 日本の酪農の中 心である北海道・十勝の現場における乳牛の状況を,基礎的な栄養・生殖生理学の視点までを含めて包括的に解析を進めることで,応用範囲の広い乳牛の生産衛 生に関する基本的で新しい群管理システムが構築できることが期待される。その過程で,地域の現場,試験場,大学の連携が進むことが予想される。合わせて, より健常に飼養管理された牛群の生産向上のための,個体の潜在能力を利用した継続性のある新しい生殖・生長技術の開発を推進する。この一連の新しい枠組み が,今後の国際的および地域の酪農の指針に大きく貢献できると考えられる。

ウシ卵巣内での卵胞の発育と排卵
ウシ卵巣内では,妊娠していない場合,21日に1度1つの卵胞だけが排卵に至る。一方,多くの小卵胞は,発育途中で競争に敗れ,アポトーシスにより死に至り,消滅する。これらの一連の現象には,血管新生と血管機能が密接に関係している。
健常な乳牛群を維持する新しい管理システム
ウシは通常1つだけ排卵し,1頭の子牛を出産する。“ダブル排卵モデル”は,雌ウシの潜在能力を利用した継続的な生殖技術となることが期待される。同時に,健常な牛群を維持するための新しい管理システムの構築が必要である。

Study for Improving Efficiency and Hygiene in Animal Production

The objective of this unit is to develop and establish a new management system for dairy cows that is based on nutritional and reproductive physiology. The approach is ongoing at the Field Science Center of the Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine as well as private dairy farmers in Tokachi, Hokkaido, which is the major dairy district of Japan. The project also involves the development of a new profile test for dairy cows. In addition to the traditional examination, it includes an endocrinological index. Furthermore, our efforts are directed to establishing new technologies to increase the productivity of dairy and beef cattle by enhancing the ovarian activity of the dams based on their potential without resorting to any hormonal treatment. In this way, the cows can be continuously and repeatedly used for milking and producing offspring. The main focus is on the regulation of ovarian angiogenesis, vascular function, and a newly discovered double-ovulation model. Using an original in vivo cow model, several universal and essential phenomena have been shown to occur in the bovine ovary. They involve real-time changes in follicular as well as corpus luteum blood flow and local synthesis and secretion of bioactive molecules that regulate vascular remodeling and tonus. The objective of the study is to develop a dairy system with international and local applications for improved and sustained milk and beef production.