新興・再興感染症の制御に関する研究

 

代表研究者:前田秋彦
共同研究者:牧野壮一,度会雅久,大星健治

研究課題の背景・目的

フラビウイルス感染環 近年,各種原虫病,SARSや西ナイル熱などのウイルス病,炭疽やMRSAなどが引き起こす細菌感染症,更にはBSEな ど,危険度の高い新興・再興感染症の発生が世界各地で発生し報告されている。日本においても,公衆衛生学的に国民の健康を守り,食の安全を確保するために も,これら感染症を制御する対策の確立が急務となっている。そこで本研究では,これら感染症の発生機構や病態形成の機序の解明し,的確かつ迅速な診断・予 防法を確立することを目的とする。

研究課題の概要

1.ウイルス感染症(フラビウイルスを中心に)対策

 フラビウイルスは蚊あるいはダニをベクターとする人獣共通感染症を引きおこす。本ウイルスには,黄熱ウイルスや日本脳炎ウイルスの他,近年北米で流行している西ナイルウイルス (WNV) や,北海道にも存在が認められたダニ脳炎ウイルス (TBE) が属しており,その感染制御が強く求められている。特にTBEはミルクを介したヒトへの感染が報告されており,食品衛生学的な監視が必要である。そこで,本ウイルスに対する高精度で迅速な検査法として,各種のPCRやELISA法 などの免疫学的診断法を確立する。更に,ウイルス遺伝子を用いたリバース・ジェネティックス法を確立し,ウイルスの感染機構や病原性の発現機序を解明す る。また,WNVでは感受性宿主であるウマやトリ,ヒトに対するワクチネーションの確立が望まれており,その開発を行う。

2.BSE対策

 プリオンによる牛の海綿状脳症(狂牛病:BSE) への対策は,行政上屠殺前の牛や斃死牛の全頭検査体制の確立から社会的な騒動は沈静化に向かってきている。しかし,食品の安全性という観点からは,まだ多 くの課題を残している。その一つとして,プリオン病迅速診断法の高感度化が必要であるといえる。現行のプリオン検出法は動物を用いるバイオアッセイの 100~500分の1程度の感度しかないので,時間分解蛍光測定法,生物発光法などの高感度検出系,あるいは蛍光相関測定法などの分子イメージング技術を 導入して,現行法の100倍以上の高感度化を図ることが重要である。

3.細菌性新興・再興感染症対策

 米国で起こった 同時多発テロをきっかけとして,危険性の高い人獣共通感染症への関心が高まってきた。特にその診断・予防法が充分に確立していないため,その対策が国内外 を問わず緊急課題となっている。その中でも特に危険度の高い(レベル3)の細菌感染症への対策が重要である。そこで,まだ対策の不十分な炭疽,ブルセラ 症,野兎病および鼻疽について,発生国での現地調査も含め診断法を確立する。同時に各感染症の発症機構を解析し,予防法の確立を目指す。

BSE診断法の確立1

BSE診断法の確立2

 

得られた成果

1. ハンタウイルスは野生げっ歯類よりヒトに感染し,腎症候性出血熱やハンタウイルス肺症候群を引き起こす人獣共通感染症原因ウイルスの一つである。本ウイル スは北海道にも存在するため,その感染防御が重要である。ハンタウイルスの感染増殖のメカニズムは今だ不明な点が多く,感染をコントロールする上でも解明 しておく必要がある。そこで,ハンタウイルスの転写に関与していると考えられるウイルスの核蛋白質と相互作用する細胞因子を同定し,その機能解析を行っ た。その結果,宿主のさまざまな機能を司るSUMO-1蛋白質に関与する酵素群がウイルスの核蛋白質と相互作用することが明らかとなった。特にUbc9は核蛋白質の細胞内局在を決定している可能性が示唆された。

2.中国の新彊を含む西アジア地方において,季節性に流行が認められるクリミア・コンゴ血熱(CCHF) はダニ媒介性にヒツジからヒトに感染するクリミア・コンゴ出血熱ウイルスによって引き起こされることが知られている。本ウイルスの日本での発生の報告は無 いが,十分に注意を要するウイルスの一つである。しかし,検査法が今だ確立しておらず,自然界での分布やその生物学的解析もすすんでいない。そこで,本年 度は,ウイルスの組み換え核蛋白質に対する抗体を作製し,免疫組織染色法やELISA法などの検査法を確立し,中国の新彊のヒト患者やヒツジ,ダニにおける保有率を調査した。

3.日本で発生した羊スクレイピーとBSEの異常型プリオン蛋白質(PrPSc)の生化学性状をrPScの分子量,糖鎖型,およびPrPのN末端に存在する8アミノ酸の繰り返し配列を認識するモノクローナル抗体との反応性から解析した。その結果,これまでに発生した日本のBSEは全て同一のタイプであった。また,羊スクレイピーの一つはPrPScのペプチド鎖の分子量がBSEのものと同一であり,モノクローナル抗体との反応性からも,他の羊スクレイピーとは異なり,BSEのものと類似点が認められた。このモノクローナル抗体は羊スクレイピー,BSEの株の分類に有効であることが示唆された。

4.炭疽菌の迅速な検出法を確立するとともに,炭疽の発症過程において,莢膜が重要な意味を持つことを明らかにした。

5.ブルセラ病の診断法を開発するとともに,ブルセラ菌のマクロファージ内侵入機構とlipid raftとの関連を明らかにした。

今後の展望

 新興・再興感染症に対する監視体制を整えておくことは,日本に存在する病原体を感染初期に診断し治療できるばかりでなく,現在日本に存在しないが将来輸入される可能性のある病原体に対する検疫体制の確立にも繋がる。本研究によって明らかとなるウイルスやBSEの感染機構や病原性の発現機序などの基礎データは,それら病原体の引き起こす病気の予防や治療法の開発に役立つことが期待される。

 

Study on the control of emerging and re-emerging diseases

Recently, many emerging and re-emerging diseases have occurred worldwide. Such diseases include parasitic diseases in Africa and Asia, the West Nile virus in America, SARS, and BSE. Furthermore, after the Sept. 11, 2001 terrorist attacks in the United States, the fear of bioterrorism has taken on a new dimension, particularly with the possibilities of using anthrax and variola viruses. We focus on emerging and re-emerging zoonotic diseases, especially on the infectious food-borne diseases. We will contribute to ensuring animal hygiene and food safety through the studies of the occurrence factor, the development of diagnosis and prevention methods, and pathogenesis. A system for monitoring and detecting pathogens and for developing insights into the biology of pathogens is currently being developed.