原虫・宿主相互細胞機能の免疫病理学的および原虫病診断技術の開発

 

代表研究者:五十嵐郁男,長澤秀行
共同研究者:横山直明

研究課題の背景・目的

 原虫は宿主の細 胞に侵入し,分裂・増殖後,宿主細胞を破壊することにより宿主に害を与える。しかしながら,原虫の宿主細胞への侵入,宿主細胞での原虫の増殖・分裂に関す る機構,原虫の病原性発現機序や宿主防御機構はほとんど明らかになっていない。そこで,住血原虫を主体に宿主細胞への接着・侵入や感染防御機構について, 試験管内培養法やノックアウトマウスを用いて解析し,新しい薬剤やワクチン開発のため基礎的な検討を行う。また,各種原虫の遺伝子解析により,血清診断に 有効な原虫抗原の遺伝子を探索し,得られた遺伝子情報から組み換え原虫抗原を用いた簡便で迅速な血清診断法の開発,遺伝子診断に応用し,国際標準診断法の 確立を目指す。

研究課題の概要

1.バベシア原虫の赤血球への侵入機構

 赤血球寄生性原 虫であるバベシア原虫の赤血球吸着及び侵入機構について,赤血球膜の成分ノックアウトマウスを用いて検討する。更に,赤血球膜レセプターに対するバベシア 原虫のリガンドの検索を行う。これらのデータを基礎にウシ,ウマのレセプター,リガンドの解析を進める。また,各種主要抗原遺伝子を導入したトランスジェ ニックマウスや原虫,各種サイトカイン遺伝子を改変したノックアウトマウス等を用いて,原虫感染時の病態を解析する。

2.バベシア感染に対する診断法の開発

 これまで解析してきたウマバベシア原虫のEMA-2,BC48,ウシバベシア原虫のRAP-1,トキソプラズマ原虫のSAG2等の組換え抗原を用いて,ELISA診断法,更に数分間で判定可能なイムノクロマト法の開発を行う。

バベシア原虫の赤血球侵入機構の解明
バベシア原虫の赤血球侵入機構の解明
バベシア原虫の赤血球への侵入過程に関与する赤血球側受容体と原虫側の因子を推進。
GFP遺伝子導入トキソプラズマ
GFP遺伝子導入トキソプラズマ
自殺原虫などのトランスジェニック原虫作製が容易になりつつある

 

得られた成果

1.バベシア原虫の赤血球への侵入機構

 グライコフォリンA(GPA)ノックアウトマウスの赤血球膜上の2-3結合シアル酸が,野生型マウスと比較して顕著に減少しており,更にはGPAノックアウトマウスB. rodhaini感染に対して強い抵抗性を示した。これらの結果は,B. rodhainiの生体内での増殖にGPAが重要な役割を果たしていることを示唆しており,GPAの赤血球の侵入に関する機構に関して更なる検討が必要である。また,ウシバベシア原虫B. bovisの培養系を用いた解析により,赤血球膜上のα2-3結合型シアル酸残基が,B. bovisの赤血球感染機構において重要な役割を果たしていることが明らかになった。

2.バベシア感染に対する診断法の開発

 ウマバベシア原虫のEMA-2,BC48,ウシバベシア原虫のRAP-1,トキソプラズマ原虫のSAG2について効率のよい組換え抗原作製法を検討し,この抗原を用いて感度と特異性が高いELISA診断法を確立した。また,迅速・簡便で,かつ安価な診断法であるイムノクロマトキットを試作し,検出感度と特異性が高いことを確認している。今後の実用化を目指して,野外への応用試験を計画中である。

今後の展望

 バベシア原虫と赤血球への侵入各ステージに関与するレセプター,リガンドの検索,およびこれら分子の相互作用,トキソプラズマ,ネオスポーラ原虫の病原性発現機構,病御免疫機構の解明により,新たな原虫ワクチンや原虫薬の開発に応用されることが期待される。また,組換えバベシア原虫抗原を用いた正確で迅速な血清診断法は問題となる検疫体制の強化並びに海外からの原虫病の侵入阻止に貢献できるばかりでなく,予防対策,疫学的調査の実施にも役立つ。さらにこれらの診断法が国際獣疫事務局(OIE)による国際標準診断法に採用されることにより,国際貿易の促進も期待される。

迅速診断法(イムノクロマト法)の開発
A.イムノクロマト法の原理 B.イムノクロマト法の例:左陽性,右陰性
イムノクロマト法の原理 イムノクロマト法の例

Host-parasite interaction and its application for diagnosis

Protozoan parasites invade, multiply, and destroy host cells, ultimately causing damage or death to the host. However, the specific mechanisms involved in the interaction between protozoan parasites and host cells are not well known. The understanding of host-parasite interaction will lead to the development of new anti-protozoan drugs or vaccines against protozoan infections.

The first objective of this research is to identify factors involved in the invasion mechanisms of Babesia parasites into erythrocytes using glycophorin A-, C3-, and Duffy-knockout mice. Preliminary results indicated an important role of glycophorin A in the invasion of B. rodhaini into erythrocytes. Furthermore, a possible role of sialic acid residues on an erythrocyte surface in the invasion of B. bovis into erythrocyte is suggested by an in vitro culture system. Immune and immunopathogenical mechanisms are also examined using protozoan antigen-transgenic and cytokine knockout mice.

Other objectives of this research are to develop rapid and accurate diagnostic methods that can be used in the treatment or control of protozoan diseases and in epidemiological studies and prevent the introduction of protozoan diseases into Japan. Highly sensitive and specific ELISA and immunochromatographic tests (ICT) with recombinant antigens for the immunodiagnosis of T. gondii infection in cats and B. equi infection in horses were successfully developed. ICTs improved the immunodiagnosis of these two protozoan diseases, resulting in a rapid, simple, and relatively inexpensive method that was highly sensitive and specific. ELISA and ICT for B. bovis, B. gigemina, and B. caballi are also being investigated. The diagnostic methods developed in this study are being used in combination with international research networks for worldwide evaluation and control of protozoan diseases.