原虫感染に対する抵抗性遺伝子の遺伝工学的および発生工学的研究

 

代表研究者:鈴木 宏志
共同研究者:玄  学南

研究課題の背景・目的

 ある種の原虫感染に対して感受性の高い動物と抵抗性の強い動物の存在が知られている。そこで原虫感染抵抗性動物から分子免疫学的手法により耐病性遺伝子を同定し,ノック アウトやトランスジェニックの作出などの発生工学的手法を活用して原虫感染に抵抗力を持つマウスモデルを開発する。また,ノックアウトやトランスジェニッ クマウスの作出により,原虫の病原性に関与する宿主動物および原虫の遺伝子を同定し,原虫の病原性発現機序を明らかにする。最終的にこれらの成果に基づき原虫感染に対する耐病性家畜の開発を目指す。

研究課題の概要

1.トキソプラズマ遺伝子を持つトランスジェニックマウスの樹立と解析

 トキソプラズマ原虫のp24遺伝子及びp43遺伝子をクローニングし,トランスジェニックマウスを樹立する。また,すでに作出されているp30遺伝子トランスジェニックとp24遺伝子,p43遺伝子のダブルあるいはトリプルトランスジェニックマウスを樹立して,トキソプラズマ原虫感染に対する免疫誘導能と感染防御効果の検討を行う。

2.原虫感染における酸化的ストレスの効果

 「酸化ストレス」を用いた効果的な原虫感染治療法あるいは感染抵抗性動物の開発の可能性を探るため,α-tocopherol transfer proteinノックアウトマウスをモデル系として,種々の原虫感染における酸化的ストレスと宿主/原虫との関係を検討する。

得られた成果

1.トキソプラズマ遺伝子を持つトランスジェニックマウスの樹立と解析

 トキソプラズマp30遺伝子あるいはp24遺伝子を持つトランスジェニックマウスを樹立することに成功しており,現在,原虫の宿主細胞内への侵入機序および感染に対する免疫反応の解析を進めている。また,p43遺伝子のクローニングを終え,p43ランスジェニックマウスを作出中である。

マウス受精卵への遺伝子導入 マウス受精卵への遺伝子導入 P30トランスジェニックマウス P30ランスジェニックマウス

2.原虫感染における酸化的ストレスの効果

 「酸化ストレス」を用いた効果的な原虫感染治療法あるいは感染抵抗性動物の開発の可能性を探るため,循環中のビタミンEを欠いているα-tocopherol transfer proteinノックアウトマウスにマウスマラリアを感染させた。その結果,この遺伝子欠損マウスでは,マウスマラリア感染に対して抵抗性を示すこと,およびノックアウトマウス赤血球内のマラリア原虫のDNAは酸化的障害を受けていることが明らかとなった。また,野生型マウスに造血因子を投与することによって人為的多血症を誘起することによって,トリパノソーマ感染に抵抗性を導くことが可能であること,さらに,造血因子の投与によりトリパノソーマDNAに酸化的障害をもたらすことを明らかにした。造血系への刺激による赤血球数の増加が,循環中の酸化的ストレスを増大させ,このことがトリパノソーマ原虫の増殖抑制に働いているものと考えられる。

今後の展望

 発生工学的手法 を原虫感染症研究に導入することによって,原虫遺伝子および宿主遺伝子の機能を細胞レベルから動物の個体レベルで解析することが可能になってきた。当研究 センターでは,これまでにいくつかのサイトカイン欠損マウスや受容体欠損マウスを,バベシア,トリバノソーマ,マラリアなどの宿主との関係の理解のために 利用するとともに,トキソプラズマの表面抗原のひとつであるp30(SAG-1)遺伝子を持つトランスジェニックマウスを世界で初めて樹立することに成功しており,原虫の宿主細胞内への侵入機序および感染に対する免疫反応の解析を進めている。

 これまでの研究成果は,"酸化ストレス"を用いた効果的な原虫感染治療法あるいは感染抵抗性動物の開発の可能性を示唆しており,酸化的ストレスと宿主/原虫との関係については,より詳細な検討を加える予定である。

 さらに,トキソプラズマ感染の宿主防御機構におけるpoly(ADP-ribose) polymerase-1 (PARP)の関与を検討するため,PARP欠損ES細胞および過剰発現ES細胞やPARPノックアウトマウスとPARPトランスジェニックマウスを用いて,トキソプラズマの実験的感染を行い,アポトーシス制御を始めとした病態の解析を行うことも計画している。

 今後,これらの基礎的研究による宿主/原虫の関係理解を通じて,原虫感染に対する耐病性家畜の開発が促進されることが期待される。

受精卵への顕微操作

受精卵への顕微操作

酸化ストレスによるトリパノソーマのDNA損傷1酸化ストレスによるトリパノソーマのDNA損傷2 酸化ストレスによるトリパノソーマのDNA損傷3酸化ストレスによるトリパノソーマのDNA損傷3

酸化ストレスによるトリパノソーマの
DNA損傷(グリーン),赤は核染色

 

Study on host-parasite interaction by using transgenic technology and development of genetically modified animals resistant to protozoan infection

It is well known that there are both resistant and susceptible strains of animals against protozoan infection in nature. To develop genetically modified animals resistant to protozoan infection, we are trying to identify gene/s responsible for host-parasite interaction in hosts as well as in parasites. In transgenic strategy, mice carrying p24 and p43 genes from toxoplasma are developing, in addition to p30 transgenic mice that had been established for the first tine in the world as mice incorporated protozoan gene in National Research Center for Protozoan Diseases. These mice will contribute to identify mechanism for invasion of parasite into the host cells and immune response in the host. Alpha-tocopherol transfer protein (TTP) knockout mice are used as tools for understanding the effect of oxidative stress for protozoan proliferation in a host animal. We have shown that alpha-TTP knockout mice are resistant to murine malaria infection. The DNA of parasites recovered from the alpha-TTP knockout mice exhibited DNA damage due to a lack of vitamin E in circulation in the host animal. Our data indicates that the inhibition of alpha-TTP activity might be effective for the treatment of protozoan infection.