性と老化と寿命と

生命とは、遺伝的プログラムの実現としての生命サイクル(の位相進行)である。

生命の瞬間は、生命サイクルの一位相であり、
直前の位相によって作られ直後の位相を準備するものとしてのみ存在する。

生命サイクルは、新たな生命サイクルの創造を予定した過程である。
新たな生命サイクルの創造(予定された結果)は生命サイクルの目的であるが、
これを、人間(思考)の目的と混同してはならない。

人間の目的は、人間の「自由な」思考の産物である。
自由な思考は、人間行動の可能な選択肢を考案し、
自由意志は、選択肢の中から一つを選択することによって行為の決断を下す。
人間は、自由に思考し、自由に判断するよう、遺伝的にプログラムされている。

思考は「もの」や「こと」どもを論理的に関係づける作業であるから、思考の「自由性」は無限ではない。
つまり、想像しうる選択肢の数は無限ではない。また、人間行動として「可能な選択肢」はその一部である。
{人間(生物)的制約;遺伝的制約、時代的・文化的制約、個人的(境遇的)制約}
自由意志は、この「可能な選択肢」から一つを選択する「自由」である。
この選択の基準を、(個人の)価値観(または規範)という。

自然淘汰原理により、
生命サイクル実現の為のメカニズム(生命の驚異)が選ばれる(進化する)。
人間の「自由な思考」能力(人間的知性)も、その(メカニズムの)一つに過ぎない。

自然淘汰と生命サイクルの目的

老化を、加齢に伴う生存力や繁殖力の低下、と定義しておきます。

ユーグレナのように、無性的な細胞分裂によってのみ増殖する「非性的生物」が老化する、と仮定してみましょう。仮に、細胞分裂によって同じ内容物のユーグレナが誕生するとすると、世代を経る毎に「老化」度は蓄積し、結局のところすべてのユーグレナが繁殖力をゼロに落とすことになります。したがって、等分裂的な細胞分裂によって増殖する生物のうち、老化するものが仮に生きていたことがあったとしても、早晩、絶滅してしまったはずであり、現存し得ないことになります。

一方、性ある生物は一般的に老化するようです。老化しない「仮想的な」性的生物は、永遠に若々しい存在です。直ちに想像できるように、老化するという形質は、その個体の繁殖成功度(=適応度)を低下させる不利な形質です。

  • 老化が遺伝的形質であることは明らかですが、だからといって、老化が「発生プログラム」の延長線上としての「老化プログラム」に沿って進行するということにはなりません。なぜかというと、例えば生体には老化阻止メカニズムが遺伝的にプログラムされていると仮定した場合、老化阻止メカニズムの加齢に伴う崩壊(擦り切れ、エラー蓄積、障害)こそ老化の本質でなくてはならないからです。この例を言い換えると、「若さを保とうとする」過程はプログラムされているが、加齢はこのプログラムを崩壊させるのだ、ということです。ですから、老化が遺伝的形質であることが必ずしも老化のプログラム説を支持する訳ではないのです。
     受精卵が成体に発生成熟していく発生過程では、その個体の「動的秩序」の強度(あるいはネゲントロピー(負のエントロピー)の大きさ、といってもよいでしょう)を高めていきます。老化過程では逆に動的秩序の強度は低下していきます。
     「老化がプログラムされている」という仮説は、この低下が生体の積極的過程となっていることを主張しています。これとは対照的に、老化の障害説では、老化をある過程のダメージの帰結として捉えます。つまり、生体は「老化防止」のメカニズムをもっているのであるが、このメカニズムが加齢とともに擦り切れていく、と捉えるのです。このメカニズムに遺伝的欠損があれば「早老遺伝子」でしょうし、このメカニズムがふつうより上手く機能するような変異遺伝子は「晩熟遺伝子」でしょう。

  • 子孫への資源分配によって「親」の老化は「共倒れ」的現象を食い止める意義があるのだ、というもっともらしい誤解が世間的には流布しているのですが、「誤解」です。「老化して死ぬ運命」にあるからこそ資源分配という結果がもたらされうるのであって、「資源分配」の為に、老化形質が誕生した訳ではありません。そもそも、性的生物が老化を避けうるならば、子孫を残すこと自体に「歴史的」意味はなくなります(もちろん、被食死や偶然死などのチャンスを減らす効果はありますが)。子守りをするのだって、親が若々しいほど有利な訳です。

老化は不利な形質なのに、なぜ避けられないのか? 老化の歴史的起原すなわち究極要因を探ることを通じ、第一に老化のメカニズム(近接要因)を予測してみましょう。第二に、哺乳類の最長寿命がからだのサイズによって決められるという単純な図式が否定され(→異説「ゾウの時間 ネズミの時間」)、むしろその生活史戦略と密接に関係していることが予想されます。特に、霊長類の最長寿命が哺乳類一般のそれより例外的に長い、という事実が合理的に説明されるのです。或いは、霊長類などは、老化を低減・遅延する為のメカニズムを進化させてきた、といってもよいでしょう。これは、単に老化の問題に限定されたものではなく、生活史(生命サイクル)的事象全体のタイミングなりテンポが淘汰圧の影響を受けて進化してきたことと関係しています。全く同じようなことは、単細胞真核微生物の繊毛虫ゾウリムシの生命サイクルについても言えます。


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